fujimura_k
MOURNING2021年12月発行 月鯉・現パロ・R18 『金曜まで待って/待てない』限定公開社会人で同棲してる二人。出張で暫く家を空ける鯉を待てない堪え情の無い月の話。
当該作品の再販予定なし
金曜まで待って/待てない堪え情が無い。のではなくて、愛情が深い。のだと思って欲しい。
我儘かも知れないが。
「お帰りなさい。」
「った、だいま…?」
そろそろだろう、と、玄関で待ち構えていたら、ドアを開けた鯉登さんは予想より遥かに驚いた顔をして『ただいま』のその一言を詰まらせた。
「そんなに驚くことないでしょう?」
心底驚いた様子に苦笑してそう零すと、鯉登さんは靴を脱ぎながら「まだ帰ってないと思とった」と少しばかり拗ねたような言い方をした。どうせ照れ隠しだとは解っているが。
「今日、早かったのか?」
「えぇ。だから、偶には俺が晩飯くらい用意しようと思って。」
「まこち!?」
さっきから驚いてばかりの鯉登さんは眼をまん丸にして声を上げた。素直な反応は可愛らしいが、そんなに驚かれるほど俺は普段何もしていないという事かと苦笑いするしかない。
10336我儘かも知れないが。
「お帰りなさい。」
「った、だいま…?」
そろそろだろう、と、玄関で待ち構えていたら、ドアを開けた鯉登さんは予想より遥かに驚いた顔をして『ただいま』のその一言を詰まらせた。
「そんなに驚くことないでしょう?」
心底驚いた様子に苦笑してそう零すと、鯉登さんは靴を脱ぎながら「まだ帰ってないと思とった」と少しばかり拗ねたような言い方をした。どうせ照れ隠しだとは解っているが。
「今日、早かったのか?」
「えぇ。だから、偶には俺が晩飯くらい用意しようと思って。」
「まこち!?」
さっきから驚いてばかりの鯉登さんは眼をまん丸にして声を上げた。素直な反応は可愛らしいが、そんなに驚かれるほど俺は普段何もしていないという事かと苦笑いするしかない。
fujimura_k
PAST2023年12月発行『喫茶ツキシマ・総集編』(番外編部分)月鯉転生現パロ。喫茶店マスターの月島と作家の鯉登の物語。総集編より番外編部分のみ。
喫茶ツキシマ 総集編(番外編)例えば
こんな穏やかな日々が
この先ずっと
ずっと
続いていくなんて
そんな事があるのでしょうか。
それを
願っても、いいのでしょうか。
***
図らずも『公衆の面前で』という派手なプロポーズをして以来、鯉登さんは殆ど俺の家で過ごすようになった。
前々から昼間は大抵店で過ごしてくれていたし、週の半分近くはうちに泊っては居たのだけれど、其れが週四日になり、五日になり、気付けば毎日毎晩鯉登さんがうちに居るのが当たり前のようになっている。
資料を取りに行くと言ってマンションに戻ることはあっても、鯉登さんは大抵夜にはうちに帰って来て、当然のように俺の隣で眠るようになった。
ごく稀に、鯉登さんのマンションで過ごすこともあるが、そういう時は店を閉めた後に俺が鯉登さんのマンションを訪ねて、そのまま泊っていくのが決まりごとのようになってしまった。一度、店を閉めるのが遅くなった時には、俺が訪ねて来なくて不安になったらしい鯉登さんから『未だ店を開けているのか』と連絡が来た事もある。
19591こんな穏やかな日々が
この先ずっと
ずっと
続いていくなんて
そんな事があるのでしょうか。
それを
願っても、いいのでしょうか。
***
図らずも『公衆の面前で』という派手なプロポーズをして以来、鯉登さんは殆ど俺の家で過ごすようになった。
前々から昼間は大抵店で過ごしてくれていたし、週の半分近くはうちに泊っては居たのだけれど、其れが週四日になり、五日になり、気付けば毎日毎晩鯉登さんがうちに居るのが当たり前のようになっている。
資料を取りに行くと言ってマンションに戻ることはあっても、鯉登さんは大抵夜にはうちに帰って来て、当然のように俺の隣で眠るようになった。
ごく稀に、鯉登さんのマンションで過ごすこともあるが、そういう時は店を閉めた後に俺が鯉登さんのマンションを訪ねて、そのまま泊っていくのが決まりごとのようになってしまった。一度、店を閉めるのが遅くなった時には、俺が訪ねて来なくて不安になったらしい鯉登さんから『未だ店を開けているのか』と連絡が来た事もある。
fujimura_k
MOURNING現パロ月鯉 珈琲専門店・店主・月島×画家・鯉登脱サラしてひとりで珈琲専門店を営んでいた月島が、画家である鯉登と出逢ってひかれあっていく話。
作中に軽度の門キラ、いごかえ、菊杉(未満)、杉→鯉な描写が御座います。ご注意ください。
珈琲 月#1 『珈琲 月』
そのちいさな店は、海の見える静かな街の寂れた商店街の外れに在る。
商店街は駅を中心に東西に延びており、駅のロータリーから続く入り口付近には古めかしいアーケードが施さていた。年季のいったアーケードは所々綻びて、修繕もされないまま商店街の途中で途切れているものだから一際寂れた雰囲気を醸している。
丁度、アーケードの途切れた先には海へと続く緩やかな坂があり、下って行くと海沿いの幹線道路へと繋がっている。坂の途中からは防波堤の向うに穏やかな海が見え、風が吹くと潮の香りが街まで届いた。
海から運ばれた潮の香りは微かに街に漂い、やがて或る一点で別の香りにかき消される。
潮の香りの途切れる場所で足を止めると、商店街の端にある『カドクラ額縁画材店』の看板が目に入るが、漂って来るのは油絵の具の匂いではない。潮の香にとって代わる香ばしく甘い香りは、その店の二階から漂って来るモノだ。
32292そのちいさな店は、海の見える静かな街の寂れた商店街の外れに在る。
商店街は駅を中心に東西に延びており、駅のロータリーから続く入り口付近には古めかしいアーケードが施さていた。年季のいったアーケードは所々綻びて、修繕もされないまま商店街の途中で途切れているものだから一際寂れた雰囲気を醸している。
丁度、アーケードの途切れた先には海へと続く緩やかな坂があり、下って行くと海沿いの幹線道路へと繋がっている。坂の途中からは防波堤の向うに穏やかな海が見え、風が吹くと潮の香りが街まで届いた。
海から運ばれた潮の香りは微かに街に漂い、やがて或る一点で別の香りにかき消される。
潮の香りの途切れる場所で足を止めると、商店街の端にある『カドクラ額縁画材店』の看板が目に入るが、漂って来るのは油絵の具の匂いではない。潮の香にとって代わる香ばしく甘い香りは、その店の二階から漂って来るモノだ。
fujimura_k
MOURNING2023年12月発行『喫茶ツキシマ・4』月鯉転生現パロ。喫茶店マスターの月島と作家の鯉登の物語4巻目。
兄が訪ねてくることになって鯉が落ち着かなくなったり、月が腹を括ったり、商店街の面々がそんな二人をやきもきしながら見守ったりしている4巻目です。24年8月5巻発行済み。
喫茶ツキシマ 4ただ
あなたと居たいのです
何も無い
平穏な日々を
変わらない
ありきたりな毎日を
穏やかに
望むのは
それだけ
ただ
それだけなのです
***
『一緒に、暮らしませんか』と、月島が漸くそう言ってくれたのは、私が『喫茶ツキシマ』の二階で過ごすのが殆ど当たり前のようになってからのことだった。
実際、ほぼ住んでいるようなモノだったから、そうした話をするのも今更なのだろうと思っていた。だから、此方から何を確かめることもせずにいたのだけれども、改めてそう言われてみると、妙に身構えてしまって『いいのか?』などと、随分と意地の悪い物言いをしてしまった。声にしたその言葉で、自分が月島からの言葉が無いことに拗ねていたのだとも気付かされたが、つまらない言い方をして月島を酷く恐縮させてしまったことは後で大いに反省した。
42361あなたと居たいのです
何も無い
平穏な日々を
変わらない
ありきたりな毎日を
穏やかに
望むのは
それだけ
ただ
それだけなのです
***
『一緒に、暮らしませんか』と、月島が漸くそう言ってくれたのは、私が『喫茶ツキシマ』の二階で過ごすのが殆ど当たり前のようになってからのことだった。
実際、ほぼ住んでいるようなモノだったから、そうした話をするのも今更なのだろうと思っていた。だから、此方から何を確かめることもせずにいたのだけれども、改めてそう言われてみると、妙に身構えてしまって『いいのか?』などと、随分と意地の悪い物言いをしてしまった。声にしたその言葉で、自分が月島からの言葉が無いことに拗ねていたのだとも気付かされたが、つまらない言い方をして月島を酷く恐縮させてしまったことは後で大いに反省した。
fujimura_k
MOURNING2022年5月発行 明治月鯉R18 『鬼灯』身体だけの関係を続けている月鯉。ある日、職務の最中に月が行方を晦ませる。月らしき男を見付けた鯉は男の後を追い、古い社に足を踏み入れ、暗闇の中で鬼に襲われる。然し鬼の姿をしたそれは月に違いなく…
ゴ本編開始前設定。師団面子ほぼほぼ出てきます。
鬼灯鬼灯:花言葉
偽り・誤魔化し・浮気
私を誘って
私を殺して
明け方、物音に目を覚ました鯉登が未だ朧な視界に映したのは、薄暗がりの中ひとり佇む己の補佐である男―月島の姿であった。
起き出したばかりであったものか、浴衣姿の乱れた襟元を正すことも無く、布団の上に胡坐をかいていた月島はぼんやりと空を見ているようであったが、暫くすると徐に立ち上がり気怠げに浴衣の帯に手を掛けた。
帯を解く衣擦れの音に続いてばさりと浴衣の落ちる音が響くと、忽ち月島の背中が顕わになった。障子の向こうから射してくる幽かな灯りに筋肉の浮き立つ男の背中が白く浮かぶ。上背こそないが、筋骨隆々の逞しい身体には無数の傷跡が残されている。その何れもが向こう傷で、戦地を生き抜いてきた男の生き様そのものを映しているようだと、鯉登は月島に触れる度思う。向こう傷だらけの身体で傷の無いのが自慢である筈のその背には、紅く走る爪痕が幾筋も見て取れた。それらは全て、鯉登の手に因るものだ。無残なその有様に鯉登は眉を顰めたが、眼前の月島はと言えば何に気付いた風も無い。ごく淡々と畳の上に脱ぎ放していた軍袴を拾い上げて足を通すと、続けてシャツを拾い、皺を気にすることもせずに袖を通した。
54006偽り・誤魔化し・浮気
私を誘って
私を殺して
明け方、物音に目を覚ました鯉登が未だ朧な視界に映したのは、薄暗がりの中ひとり佇む己の補佐である男―月島の姿であった。
起き出したばかりであったものか、浴衣姿の乱れた襟元を正すことも無く、布団の上に胡坐をかいていた月島はぼんやりと空を見ているようであったが、暫くすると徐に立ち上がり気怠げに浴衣の帯に手を掛けた。
帯を解く衣擦れの音に続いてばさりと浴衣の落ちる音が響くと、忽ち月島の背中が顕わになった。障子の向こうから射してくる幽かな灯りに筋肉の浮き立つ男の背中が白く浮かぶ。上背こそないが、筋骨隆々の逞しい身体には無数の傷跡が残されている。その何れもが向こう傷で、戦地を生き抜いてきた男の生き様そのものを映しているようだと、鯉登は月島に触れる度思う。向こう傷だらけの身体で傷の無いのが自慢である筈のその背には、紅く走る爪痕が幾筋も見て取れた。それらは全て、鯉登の手に因るものだ。無残なその有様に鯉登は眉を顰めたが、眼前の月島はと言えば何に気付いた風も無い。ごく淡々と畳の上に脱ぎ放していた軍袴を拾い上げて足を通すと、続けてシャツを拾い、皺を気にすることもせずに袖を通した。
fujimura_k
PAST2023年6月発行 月鯉日常アンソロジー『ヒビコレツキコイ』収録 月鯉現パロ転生記憶なし。記憶を持たずに現代で生きていた二人が偶然出会って、恋をして、一緒に暮らすようになり、二人の家を見付けるまでの話。
当時お手に取って下さった皆さま、ありがとうございました。
続く日々 土曜の朝は朝食を作る。
それが二人の決まりになって、もう三年が過ぎた。
平日は鯉登さんが、休みには俺が、二人分の朝食を作る。
これは、一緒に暮らし始めて、直ぐに決めた約束のひとつだ。ひとりで居た頃には、ろくに自炊なんてしなかった俺に、休日だけとは言え料理など続くものかと思っていたが、今では、休日どころか平日まで俺が食事を用意する日があるのだから、解らないものだ。約束として始めた食事の支度は、今日という日まで無事に続いてしまった。
いいや、無事、ではなかったか。
鯉登さんと暮らす三年の間には、何度も喧嘩をした。別れ話も一度はでた。あの時は、本当にダメかと思った。
けれども俺は、今日も変わらず朝食を作っている。自分だけのものでなく、鯉登さんと二人で食べるための朝食だ。
15173それが二人の決まりになって、もう三年が過ぎた。
平日は鯉登さんが、休みには俺が、二人分の朝食を作る。
これは、一緒に暮らし始めて、直ぐに決めた約束のひとつだ。ひとりで居た頃には、ろくに自炊なんてしなかった俺に、休日だけとは言え料理など続くものかと思っていたが、今では、休日どころか平日まで俺が食事を用意する日があるのだから、解らないものだ。約束として始めた食事の支度は、今日という日まで無事に続いてしまった。
いいや、無事、ではなかったか。
鯉登さんと暮らす三年の間には、何度も喧嘩をした。別れ話も一度はでた。あの時は、本当にダメかと思った。
けれども俺は、今日も変わらず朝食を作っている。自分だけのものでなく、鯉登さんと二人で食べるための朝食だ。
fujimura_k
MOURNING2022年5月発行 明治月鯉R18 『鬼灯』後日談ペーパー『鬼灯』の後の二人の一幕。ゴ本編開始前。鯉は未だ何も知らないし、月は鯉を殺せる気でいる。そんな頃の二人。
花に酔う 「あの鉢は、如何されました?」
行燈の薄明りの下、月島がふと問い掛けて来たその問いに鯉登は暫し口を噤んだ。というのも、月島の問うのが何であるか、直ぐには合点がいかなかったのだ。情事の後の気怠さもあってか、思考が儘ならなかったというのは言い訳になるだろうか。
「鉢とぞあったか?」と朧に問い返しさえした鯉登に、月島は呆れたような、驚いたような。何とも言えぬ顔をして「鬼灯ですよ」と溜息交じりに呟いた。言われて漸う鯉登は気が付いた。
明後日の方を向いたまま「あぁ」と短く声を漏らした鯉登は「使用人が貰って来たのだ」と呟き、ごろりと寝返りを打った。
伏せていた身体が翻ると、汗の浮いた裸の胸が顕わになる。軍服を着こんでしまえば誰の目にも触れることは無いが、曝された若い肌には情事の跡が幾つも見えた。
2237行燈の薄明りの下、月島がふと問い掛けて来たその問いに鯉登は暫し口を噤んだ。というのも、月島の問うのが何であるか、直ぐには合点がいかなかったのだ。情事の後の気怠さもあってか、思考が儘ならなかったというのは言い訳になるだろうか。
「鉢とぞあったか?」と朧に問い返しさえした鯉登に、月島は呆れたような、驚いたような。何とも言えぬ顔をして「鬼灯ですよ」と溜息交じりに呟いた。言われて漸う鯉登は気が付いた。
明後日の方を向いたまま「あぁ」と短く声を漏らした鯉登は「使用人が貰って来たのだ」と呟き、ごろりと寝返りを打った。
伏せていた身体が翻ると、汗の浮いた裸の胸が顕わになる。軍服を着こんでしまえば誰の目にも触れることは無いが、曝された若い肌には情事の跡が幾つも見えた。