鬼灯鬼灯:花言葉
偽り・誤魔化し・浮気
私を誘って
私を殺して
明け方、物音に目を覚ました鯉登が未だ朧な視界に映したのは、薄暗がりの中ひとり佇む己の補佐である男―月島の姿であった。
起き出したばかりであったものか、浴衣姿の乱れた襟元を正すことも無く、布団の上に胡坐をかいていた月島はぼんやりと空を見ているようであったが、暫くすると徐に立ち上がり気怠げに浴衣の帯に手を掛けた。
帯を解く衣擦れの音に続いてばさりと浴衣の落ちる音が響くと、忽ち月島の背中が顕わになった。障子の向こうから射してくる幽かな灯りに筋肉の浮き立つ男の背中が白く浮かぶ。上背こそないが、筋骨隆々の逞しい身体には無数の傷跡が残されている。その何れもが向こう傷で、戦地を生き抜いてきた男の生き様そのものを映しているようだと、鯉登は月島に触れる度思う。向こう傷だらけの身体で傷の無いのが自慢である筈のその背には、紅く走る爪痕が幾筋も見て取れた。それらは全て、鯉登の手に因るものだ。無残なその有様に鯉登は眉を顰めたが、眼前の月島はと言えば何に気付いた風も無い。ごく淡々と畳の上に脱ぎ放していた軍袴を拾い上げて足を通すと、続けてシャツを拾い、皺を気にすることもせずに袖を通した。
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