HISURO_desuyo
MOURNINGびめちょう2023年春テーマのSS集用に書いていたのですが、12/1~の新たな書店コラボに向けて供養を兼ねてお出しします。一旦こちらで。2023年春の思い出SS集供養【三月三日】
まっさらな紙にペンを走らせる。カリカリ、さらさらという音。洋墨が文字となり、文字が言葉となって、文章を紡いでいく。この部屋は自室ではなく、壁の時計はもう夜分の時刻を示していたが、小川未明は気にしない。部屋の主は今日中には帰らないからだ。
(白鳥……)
ぼんやりと部屋の主である友人を、小川は胸のうちで呼んだ。そうしたところで応えが返ってくるはずもなかったが、小川の指は自然と机をコツコツと叩いていた。持ち前の短気が首をもたげかける。いけない、と小川は椅子の上で姿勢を正した。
事は数時間前に遡る。
「え、出張……?」
「ああ。今日から準備に入る」
本日誕生日を迎える男──正宗白鳥は、普段通りの仏頂面で言ってのけた。小川は己の頬がぷう、と膨れるのを感じた。
4568まっさらな紙にペンを走らせる。カリカリ、さらさらという音。洋墨が文字となり、文字が言葉となって、文章を紡いでいく。この部屋は自室ではなく、壁の時計はもう夜分の時刻を示していたが、小川未明は気にしない。部屋の主は今日中には帰らないからだ。
(白鳥……)
ぼんやりと部屋の主である友人を、小川は胸のうちで呼んだ。そうしたところで応えが返ってくるはずもなかったが、小川の指は自然と机をコツコツと叩いていた。持ち前の短気が首をもたげかける。いけない、と小川は椅子の上で姿勢を正した。
事は数時間前に遡る。
「え、出張……?」
「ああ。今日から準備に入る」
本日誕生日を迎える男──正宗白鳥は、普段通りの仏頂面で言ってのけた。小川は己の頬がぷう、と膨れるのを感じた。