fujimura_k
PAST23年8月発行『未明の森/薄暮の海』現パロ月鯉月島がとある理由から未だ幼い音之進を誘拐してひと夏を一緒に過ごす話し。
後日談の本編である「未明の森」部分です。別記載の「薄暮の海」は本編の後にご覧ください。
未明の森覚えていて。 想い出して。
どうか、わたしをー
あの日々をー
空港の到着ロビーに大きく掲げられた時計の針は、間も無く午前十時を示そうとしていた。
事前に聞かされていた到着予定時刻は九時四五分。電光掲示板に遅延の案内は出ていない。定刻どおりに到着したのであれば、飛行機を降りた客たちが、手荷物を受取り、到着ロビーに出て来るのはもうそろそろだろうか。
学校という学校が夏休みに入ったこの時期、いつも混雑している空港はひと際賑やかだ。
家族か、恋人か、友人か。到着ロビーには、何処かから来る誰かを待っている人々がひしめきあっている。皆一様に落ち着かない様子で到着口を見守るその姿は、何処か滑稽だ。
尤も、傍から見れば、俺もそうした一人のように見えているのだろうが。それも、見ている人が居れば、の話だ。恐らくは、この場に居る誰しも、待ち構えている誰かのこと以外は何も気にしては居ないだろう。
52264どうか、わたしをー
あの日々をー
空港の到着ロビーに大きく掲げられた時計の針は、間も無く午前十時を示そうとしていた。
事前に聞かされていた到着予定時刻は九時四五分。電光掲示板に遅延の案内は出ていない。定刻どおりに到着したのであれば、飛行機を降りた客たちが、手荷物を受取り、到着ロビーに出て来るのはもうそろそろだろうか。
学校という学校が夏休みに入ったこの時期、いつも混雑している空港はひと際賑やかだ。
家族か、恋人か、友人か。到着ロビーには、何処かから来る誰かを待っている人々がひしめきあっている。皆一様に落ち着かない様子で到着口を見守るその姿は、何処か滑稽だ。
尤も、傍から見れば、俺もそうした一人のように見えているのだろうが。それも、見ている人が居れば、の話だ。恐らくは、この場に居る誰しも、待ち構えている誰かのこと以外は何も気にしては居ないだろう。
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PAST23年8月発行『未明の森/薄暮の海』現パロ月鯉本編『未明の森』の鯉登サイドの後日談のような話。発行当時は別冊としてお付けしました。本編をご覧になった後にこちらをご覧ください。
薄暮の海その海ならば、溺れて、沈んでも構わない。その海ならば―
あの日から、間も無く十二年が経とうとしている。
八月二十八日。一緒に花火を見たあの公園で。
そう約束したあの時、十二年という月日は途方も無いように思えたが、過ぎてしまえばあっという間だった。
十二年。約束を忘れることは無かった。一日千秋の思いで待ち続けて、その日を目前に控えてふと気付いた。
日付と場所は確かだが、何時にとは約束しなかった。と。だから何時に行けばいいのか見当もつかなくて、それなら朝からずっと待っていればいいじゃないと開き直ったのは約束の十日前だった。
待合せには絶対に遅れなく無い。もしも擦れ違いになったりしたら。そう考えただけでゾッとして、遅れずに済むようにと、待合せ場所の近くに前日から泊ることにした。けれども宿は直ぐには見つからなかった。夏休みでホテルが満室、なのではなく、ホテルそのものがその一帯には殆どなかったのだ。どうにか見付けたのは、十二年前には花火が上がっていた、その港近くにある小さなビジネスホテルだった。
11245あの日から、間も無く十二年が経とうとしている。
八月二十八日。一緒に花火を見たあの公園で。
そう約束したあの時、十二年という月日は途方も無いように思えたが、過ぎてしまえばあっという間だった。
十二年。約束を忘れることは無かった。一日千秋の思いで待ち続けて、その日を目前に控えてふと気付いた。
日付と場所は確かだが、何時にとは約束しなかった。と。だから何時に行けばいいのか見当もつかなくて、それなら朝からずっと待っていればいいじゃないと開き直ったのは約束の十日前だった。
待合せには絶対に遅れなく無い。もしも擦れ違いになったりしたら。そう考えただけでゾッとして、遅れずに済むようにと、待合せ場所の近くに前日から泊ることにした。けれども宿は直ぐには見つからなかった。夏休みでホテルが満室、なのではなく、ホテルそのものがその一帯には殆どなかったのだ。どうにか見付けたのは、十二年前には花火が上がっていた、その港近くにある小さなビジネスホテルだった。
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DOODLE23年5月発行『泡沫寓話』独り者の月×人魚鯉村はずれで暮らす独り者の月島が人魚の鯉登と出逢い、互いに惹かれあうようになり…という寓話です。人魚のお話だけれどもちゃんとハッピーエンド。
泡沫寓話 昔々或るところに、ひとりの男が居りました。
男は港のある小さな村の片隅に、独りきりで暮らしておりました。
男は始めから独りでいたのではありません。男には父も母もありましたが、男が物心ついたころには既に母の姿はなく、酒ばかり煽っては幼い男に手を上げ続けていた父は、ある日ころりと息を引き取りました。
過ぎた酒の所為だったか、成長した男が父の暴力に対抗した所為であったか、真相は定かではありません。けれども、村の誰しもが、男の父の死の真相を付き止めようとはしませんでした。村の厄介者が減って、皆ホッとしたのです。『厄介者がひとり居なくなった』村の衆にはその事実だけで充分でした。
けれども、村の衆には男が新たな『厄介者』となりました。厄介者と同じ血を引く男は、己の父親を手にかけたのかもしれない男とも見られました。村の衆は男を居ないものとして扱うようになりました。男には『月島基』という名がありましたが、その日から、男の名を呼ぶ者はひとりも居なくなりました。斯くて、男は独りきりになり、淡々と、ただ、淡々と生きているというだけの日々を送るようになりました。
18198男は港のある小さな村の片隅に、独りきりで暮らしておりました。
男は始めから独りでいたのではありません。男には父も母もありましたが、男が物心ついたころには既に母の姿はなく、酒ばかり煽っては幼い男に手を上げ続けていた父は、ある日ころりと息を引き取りました。
過ぎた酒の所為だったか、成長した男が父の暴力に対抗した所為であったか、真相は定かではありません。けれども、村の誰しもが、男の父の死の真相を付き止めようとはしませんでした。村の厄介者が減って、皆ホッとしたのです。『厄介者がひとり居なくなった』村の衆にはその事実だけで充分でした。
けれども、村の衆には男が新たな『厄介者』となりました。厄介者と同じ血を引く男は、己の父親を手にかけたのかもしれない男とも見られました。村の衆は男を居ないものとして扱うようになりました。男には『月島基』という名がありましたが、その日から、男の名を呼ぶ者はひとりも居なくなりました。斯くて、男は独りきりになり、淡々と、ただ、淡々と生きているというだけの日々を送るようになりました。
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MOURNING22’10月無配 月鯉無配某いきものパロ設定です。
森で暮らしているツキシマが森の中でコイトと出会って一緒に過ごすようになるまでのお話。
一時、ほぼ日刊連載状態になっていたシリーズの前日譚です。
寓話何処かの時代の何処かの国の
何処かの森に居たかもしれない
奇妙な『いきもの』たちのお話
むかしむかし、とある所のとある森に小さないきものがおりました。
『いきもの』と、申しましたが果して其れが『いきもの』であるかは定かではありません。
なにせ、それらは人里では見掛けることの無い姿をしておりますので。
いきものかもしれませんし、妖の類かもしれません。
或るものは猫のような、また或るものは犬のような何処かでみたような獣たちに似た姿をしているのですが似てはいるものの、獣とはまるでちがうのです。
背丈は丁度、人の膝丈ほどでしょうか。
獣のような姿をしながら、人のような装束を着て、人のように二本の足で歩くそれらは、ころころと丸く愛らしい姿をしておりました。
7447何処かの森に居たかもしれない
奇妙な『いきもの』たちのお話
むかしむかし、とある所のとある森に小さないきものがおりました。
『いきもの』と、申しましたが果して其れが『いきもの』であるかは定かではありません。
なにせ、それらは人里では見掛けることの無い姿をしておりますので。
いきものかもしれませんし、妖の類かもしれません。
或るものは猫のような、また或るものは犬のような何処かでみたような獣たちに似た姿をしているのですが似てはいるものの、獣とはまるでちがうのです。
背丈は丁度、人の膝丈ほどでしょうか。
獣のような姿をしながら、人のような装束を着て、人のように二本の足で歩くそれらは、ころころと丸く愛らしい姿をしておりました。
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PASTふぉぜ月鯉飼ってる人月鯉小説版。 23年3月無配。Twitterゆるゆる連載シリーズの小説版試作。6月に第二弾が出ます。頒布方法は追ってお知らせ。お約束を守ってくれる方にだけお渡しする方式です。ご承知おきください。通頒も準備します。
& 月島基に不動産管理部門への異動を命ずる。
そう、社内イントラに掲示されたのは未だ寒い時季だった。不動産管理部門と言えば聞こえはいいが、うちの会社のそれは、いずれ昔に社長が余暇を過ごすために買ったというだだっ広い山と、其処にある山小屋の管理をいう。
同僚たちには左遷ではないかと気の毒がられたが、出世にも興味は無く、PCと書類に囲まれた仕事にうんざりしていた俺には、此方の方が余程良いように思えた。
管理人として週の大半を山小屋で過ごし、週末になるとアパートに戻る。山を散策し、手入れの要るところは無いか、危険な箇所は無いか。気にするのはそんな事ばかりだ。数字に追われることも、取引先との交渉に頭を悩ませることも無い。いっそこのまま、定年まで此処に居たっていい。
4860そう、社内イントラに掲示されたのは未だ寒い時季だった。不動産管理部門と言えば聞こえはいいが、うちの会社のそれは、いずれ昔に社長が余暇を過ごすために買ったというだだっ広い山と、其処にある山小屋の管理をいう。
同僚たちには左遷ではないかと気の毒がられたが、出世にも興味は無く、PCと書類に囲まれた仕事にうんざりしていた俺には、此方の方が余程良いように思えた。
管理人として週の大半を山小屋で過ごし、週末になるとアパートに戻る。山を散策し、手入れの要るところは無いか、危険な箇所は無いか。気にするのはそんな事ばかりだ。数字に追われることも、取引先との交渉に頭を悩ませることも無い。いっそこのまま、定年まで此処に居たっていい。
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PAST2023年12月発行『喫茶ツキシマ・総集編』(文字数制限につき1~3部分まで)月鯉転生現パロ。記憶なしで転生し、喫茶店マスターの月島と記憶ありで転生し、作家の鯉登の物語。現在1~3+番外編を含む総集編と、続編の4、5発行済み。
喫茶ツキシマ 総集編(1~3)まだ
間に合うでしょうか
私は
また
生きていけるでしょうか
あなたと
共に
***
『佐渡へ、帰ろうと思うんだ。』
俺を呼び出した親父が最初に告げたのはその一言だった。
『いい加減歳だし、田舎の爺さんと婆さんの墓も親戚にまかせっぱなしだからな。そろそろ、ちゃんとしてやらなきゃと思ってな。』
続いた親父の言葉は尤もに思えた。そうなれば、長年、商店街の片隅で細々と営業を続けてきた喫茶店は畳むことになるだろう。それを寂しく思ったが、止めることはしなかった。そして俺は、その後その事を少しだけ後悔した。店を畳むと決めた両親が『常連さんに申し訳ないから、お前が店を継いでくれないか?』と言い出したからだ。今から十年程前の事だ。
83981間に合うでしょうか
私は
また
生きていけるでしょうか
あなたと
共に
***
『佐渡へ、帰ろうと思うんだ。』
俺を呼び出した親父が最初に告げたのはその一言だった。
『いい加減歳だし、田舎の爺さんと婆さんの墓も親戚にまかせっぱなしだからな。そろそろ、ちゃんとしてやらなきゃと思ってな。』
続いた親父の言葉は尤もに思えた。そうなれば、長年、商店街の片隅で細々と営業を続けてきた喫茶店は畳むことになるだろう。それを寂しく思ったが、止めることはしなかった。そして俺は、その後その事を少しだけ後悔した。店を畳むと決めた両親が『常連さんに申し訳ないから、お前が店を継いでくれないか?』と言い出したからだ。今から十年程前の事だ。
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MOURNING2022年10月発行 根性無しですみません 全文掲載現パロ月鯉 鯉登に迫られても逃げ続けてた根性無しヘタレ月島が年貢を納める話。(なんだその説明…)カッコいい月島はいません。
根性無しですみません毎度、馬鹿馬鹿しいお話を一席―
#1
帰ったら、大変な事になるのだろうな。とは、思っておりました。えぇ、えぇ、勿論承知しておりました。全て自分の不徳の致すところでありますからには、その覚悟は出来ておりました。いいえこれは語弊が御座います。出来ているのは覚悟が出来ていなかったが故の掛かる事態の顛末についての覚悟で御座います。確かにその覚悟は致しておりました。致しておりましたが然しここまでの事になるとは露程も思っておりませんでした。覚悟が足らなかったということで御座いましょうが、然しこれ程の事態になろうだなどと、一体如何して想像が及ぶでしょうか。其れも此れも全て自分の不徳の致すところに相違ないのですが。如何せん。この事態を如何収めるか。
24171#1
帰ったら、大変な事になるのだろうな。とは、思っておりました。えぇ、えぇ、勿論承知しておりました。全て自分の不徳の致すところでありますからには、その覚悟は出来ておりました。いいえこれは語弊が御座います。出来ているのは覚悟が出来ていなかったが故の掛かる事態の顛末についての覚悟で御座います。確かにその覚悟は致しておりました。致しておりましたが然しここまでの事になるとは露程も思っておりませんでした。覚悟が足らなかったということで御座いましょうが、然しこれ程の事態になろうだなどと、一体如何して想像が及ぶでしょうか。其れも此れも全て自分の不徳の致すところに相違ないのですが。如何せん。この事態を如何収めるか。