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DONE2024/5/5 賢者の超マナスポット2024で配布した本の再録「あなたは海になりなさい」(プランツドールパロ)の前日譚です
◇あらすじ
シャイロックが魔法舎の図書室に持ちこんだ長椅子で眠ると、時々不思議なことが起こる。その日図書室で転寝をするファウストのそばに現れたのは、彼によく似た面差しの人形だった。
ファウストによく似た人形の面倒をみるネロと、それをとりまく魔法使いたちの話。
天国から花束 図書室に長椅子を持ち込んだのはシャイロックだった。深い臙脂のベルベッドがつかわれた品のいいやつで、猫足は滑らかな曲線をしている。凭れると心地がよく、ワインで酩酊したようなうっとりとした気分を味わうことができた。本を読むにはいささか不向きな気もするが、「だからですよ」とシャイロックは微笑む。
「うつくしい物語の余韻を味わうには、それ相応の寝床がなければ無粋というものでしょう」
それが正しいかどうかはともかく、魔法舎の連中は案外この特等席を好んだ。ムルをはじめとする西の面々は勿論、フィガロやアーサー、時々はミスラまでもがひじ掛けに長い足を投げ出して、猫のようにくつろいでいる。(先日はヒースがうたた寝をして、シノが可愛いとはしゃいでいた。)俺はといえば、居心地が良すぎると却って落ち着かない気持ちになるので、せいぜい遠巻きにみるくらいだ。綺麗すぎる水に魚はすまないと、賢者の世界ではいうそうだけれど、俺も似たようなものかも知れない。あまりに丁寧に心を尽くされたりすると、自分が不当に善意を搾取しているような罪悪感を感じるのだ。「損な性分だな」と笑ったのはファウストで、そうなんだろうなと俺もおもう。最も、そういう彼だってあすこに座っているのをみたことがないのだから、それはお互い様なのだけれど。
15186「うつくしい物語の余韻を味わうには、それ相応の寝床がなければ無粋というものでしょう」
それが正しいかどうかはともかく、魔法舎の連中は案外この特等席を好んだ。ムルをはじめとする西の面々は勿論、フィガロやアーサー、時々はミスラまでもがひじ掛けに長い足を投げ出して、猫のようにくつろいでいる。(先日はヒースがうたた寝をして、シノが可愛いとはしゃいでいた。)俺はといえば、居心地が良すぎると却って落ち着かない気持ちになるので、せいぜい遠巻きにみるくらいだ。綺麗すぎる水に魚はすまないと、賢者の世界ではいうそうだけれど、俺も似たようなものかも知れない。あまりに丁寧に心を尽くされたりすると、自分が不当に善意を搾取しているような罪悪感を感じるのだ。「損な性分だな」と笑ったのはファウストで、そうなんだろうなと俺もおもう。最も、そういう彼だってあすこに座っているのをみたことがないのだから、それはお互い様なのだけれど。
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DONE本編後、湖にある灯台でファウストによく似たドールと一緒に暮らすネロと、彼のもとに訪れる様々な魔法使い達の話。*登場人物が石になる描写があります
*観用少女(プランツドール)パロですが、独自の設定を色々盛り込んでいます
*本作の前日譚が「天国から花束(https://poipiku.com/812098/11423727.html)」になります
あなたは海になりなさい夜(1)
浅い眠りのあいまに、貝殻をひろうゆめをみた。
あれは、冬の海だろうか。重たげな雲が灰青のなかをいくつもたなびいて、ひどく寂しげだった。日差しが淡く、水面と空はほとんどおなじ色をしている。辺りに人はいない。ただ波のおとだけが、連続する鍵盤の音色のように、ひっそりと水辺に響いている。ふと足もとをみると、白い砂に混じって花びらが落ちていた。……とおもうと、それは貝殻なのだった。手折った枝から散ったばかりの花のような、薄いばら色の貝殻。俺はどうしてこんなものが、と考えながら、けれどなぜか捨ておけず、それで、ひと晩中浅瀬の貝殻を拾い続けた。
そういう訳だったから、眼が醒めたあともしばらく波の音が耳から抜けなかった。
43534浅い眠りのあいまに、貝殻をひろうゆめをみた。
あれは、冬の海だろうか。重たげな雲が灰青のなかをいくつもたなびいて、ひどく寂しげだった。日差しが淡く、水面と空はほとんどおなじ色をしている。辺りに人はいない。ただ波のおとだけが、連続する鍵盤の音色のように、ひっそりと水辺に響いている。ふと足もとをみると、白い砂に混じって花びらが落ちていた。……とおもうと、それは貝殻なのだった。手折った枝から散ったばかりの花のような、薄いばら色の貝殻。俺はどうしてこんなものが、と考えながら、けれどなぜか捨ておけず、それで、ひと晩中浅瀬の貝殻を拾い続けた。
そういう訳だったから、眼が醒めたあともしばらく波の音が耳から抜けなかった。
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DONE革命軍時代にマナ石を食べるファウストのはなしマナ石とファウスト 乗せたばかりの時には冷たさを感じさせていたそれは、指を閉じて握りしめていたこともあり、ぬるく温まっていた。
重さは、その大きさから想像するよりは少しばかり重たいのだと思う。初めて手にした際にはそう感じた。何度目かの今となっては、このくらいの重さということはわかっている。わかっていても、やはり、少し重い。
元のおおきな塊から砕けたはずのものであるのに、指で撫でるその表面はつるりとしてなめらかである。長く川底にあった石のように、指を、手を、そしてこれからそれを含む口の中を傷つける鋭さはない。
不思議な石。命のかけら。マナ石、と呼ばれる、かつて魔法使いであったもの。
かつて、といってもそれは昔のことではない、今日の戦いで命を落とし、石となったもの。戦いが始まる前まで、始まってからも、同じ目標を掲げ、肩を組み合った仲間であったもの。
2700重さは、その大きさから想像するよりは少しばかり重たいのだと思う。初めて手にした際にはそう感じた。何度目かの今となっては、このくらいの重さということはわかっている。わかっていても、やはり、少し重い。
元のおおきな塊から砕けたはずのものであるのに、指で撫でるその表面はつるりとしてなめらかである。長く川底にあった石のように、指を、手を、そしてこれからそれを含む口の中を傷つける鋭さはない。
不思議な石。命のかけら。マナ石、と呼ばれる、かつて魔法使いであったもの。
かつて、といってもそれは昔のことではない、今日の戦いで命を落とし、石となったもの。戦いが始まる前まで、始まってからも、同じ目標を掲げ、肩を組み合った仲間であったもの。