さいか
MAIKING「指の間から君を見ていた。」という文で書き出し、途中、視線を落として「さようなら」と言う大和と翼のお話。#shindanmaker #二人のお話
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20220605指の間から君を見ていた。というのはあまり正確ではない。指の隙間から這入ってくる光を頼りに俺は俺の視界を塞ぐこの指をもっとよく見てみたいと思っていた。爪が手入れされているとかいないとか、筆だこがあるかどうか、それとももっと他の部位が固くなっていたり節立っていたり傷やほくろがあったりするのか、人差し指と薬指のどっちが長いのか。そういうことをひとつずつ見つめて今までどう生きてきたのかを、俺とどう違っていたのかを、どうやって寄り添ってきたのかを、推測したかった。記憶に頼れない以上、情報が必要だった。君は俺の背後でさっきまで泣いていたようだったから。それはたぶん俺のせいだったから。
「えーっと、あの」
俺の名前は東雲大和。君の名前はまだ、思い出せないままでいる。
382「えーっと、あの」
俺の名前は東雲大和。君の名前はまだ、思い出せないままでいる。