Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    InkLxh

    DONE「春と魂」
    kozさんの素敵なイラストに触発されて書かせていただいた北无。
    魂の話。
    向こうから、春の気配がした。

    おもむろに起き、身支度をする。髪は手つかずのままで、外に出た。
    うららかな匂いが立ち込めていた。肥えた土と、その下に埋まっていた植物が根を張り顔を出し、花を咲かせる匂い。遠くから野火のくすぶる匂いも、風に乗ってやってきていた。

    今年もやることが沢山ありそうだ、と思いながら、天高く腕を突き上げ伸びをする。春がやってきたときの匂いが好きだった。背筋がしゃんと伸びて、深呼吸ができて、自分の中のものが洗いざらい真新しくなっていく感じがする。大地から命が生まれ、芽吹くこの季節に、生活に必要なものをこしらえてつつがない生活をすることを、もう何年も好んで続けている。おかげで野山に関する知識はひととおり学び、ひとりでもなんら問題なくこの場所で暮らしていけるようになった。それでも、人と人との結びつきは強い。縁や結びというものはあるようで、傷負いの武人がひとり、俺の世話になりながらこの地で過ごしている。今は眠っているだろう――春の陽気は滋養をつける睡眠にもってこいだ――、あいつのことを少しだけ逡巡し、そして畑に行こうと思い立った。遠くの山々をなぞる稜線が薄墨でぼかしたよう 2992