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    snhk2501

    @snhk2501
    怪文書書くよ。捏造に次ぐ捏造なのでなんでも許せる人向け。
    最近(2022年年末ごろから)はバイクの弟と馬の兄貴のコンビにやられてそっちに突っ走りがち。
    无限&小黑の師弟の擬似親子に萌えてたのですが、
    藍渓鎮にて北河がダークホース過ぎて北河+无限沼に浸ってます。

    北河の口調が字幕組さんの翻訳を基にしているため、5/27発売の日本語翻訳版藍渓鎮での口調と異なりますことご容赦ください。
    タグ「Remedium」は今のところ无限に纏わる設定が共通してる連作です。

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    snhk2501

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    ④事件について館の調査。
    連作の続き。小黑のターン。区切りのいいとこまでかけたのでとりあえずあげる。
    (最初)①→https://poipiku.com/1040394/3778723.html
    (これの前)③→ https://poipiku.com/1040394/4367718.html
    続き⑤→ https://poipiku.com/1040394/4879299.html

    ##Remedium

    Remedium④ 小黑は无限の横たわる寝台のそばに座っていた。北河は昼食を済ませた後、无限はもう生命の危険はないから安心していい、と言って表の部屋へ行ってしまった。それが少し心細かった。
     ここは龍游の館の中らしいのに、いるはずの妖精や人間の気配が感じられない。小黑に感じられる気配は目の前で眠っている无限と、生薬の選別作業をしている北河のものだけだ。それが不思議だった。北河によれば、この施療所の中にいるのが誰かわからないように、気配を遮断する術がかけてあるのだという。陽の光に照らされた病室の窓の外を、霊魚が泳いでいった。
     コンコンと表の木戸を叩く音がした。
    「あの、程大夫」
     施療所の表口から、聞き覚えのある声がした。龍游支所の執行人、逸風だ。
    「おう、お疲れ様、逸風。昨夜は大変だったろ」
    「いえ、そちらこそ急にすみませんでした」
    「気にすんな。ここは本来そのための場所だろ」
     茶を淹れるから待ってろ、と北河が応対するのが聞こえる。どうやら逸風は昨夜公園に残っていた无限の小手を届けに来たらしい。小黑は北河と逸風の会話に耳をそばだてた。彼なら昨日の出来事について、何かあるかもしれないと思ったからだった。
    「无限なら、数日は意識が戻りそうにない。容態は安定してるし、命に別状はないけどな」
    「それが、可能なら、小黑に昨夜の状況を聞けるかどうか、となりまして……」
     まだ残党が捕まっていない可能性がある、出来る限り情報が欲しいと逸風が言いづらそうに切り出したのが聞こえ、小黑は顔を上げた。
    「……想像はついてるだろうが、無理だ。かなり参っちまってる。あれで无限の付き添いも無しに、昨日のことを聞くのは酷だろう。悪いが、この件に関しては可能性があるなら、他を当たってくれないか」
    「……そうですね」
    「俺は、医者には患者とその家族を守る務めがあると思ってる。小黑を守る責務がある以上、俺はそれに了承できない」
     自分を心配して反対してくれているらしい、北河の話し声が聞こえる。そして、それを承知した上で、逸風がここに来たらしいことも。
    ──ぼくの見たことが、役に立つなら話さなきゃ。
     だがそれは、无限が眠っているこの部屋から離れて話すことになる。
     北河はもう大丈夫だと言ったが、自分の知らない間に无限の身に何かあったらと思うと、師の側を離れるのが小黑は怖かった。今は静かに眠っているように見えても、また、血を吐くかもしれない。また、苦しそうな息をするかもしれない。そう思うと、足が竦む。
     小黑はぎゅっと師の手を握った。針が刺さり薬を入れる管の繋がった、握り返さないその手は、酷く冷たかった昨夜とは違い、温もりを取り戻しつつある。
    ──行こう。師父はきっと、大丈夫。
     己に言い聞かせ恐怖を振り払い、小黑は立ち上がった。自分の代わりにと、尻尾を一振りして出てきた黑咻を无限の枕元に乗せる。
    「ここにいて。師父に何かあったら教えて。……いってきます、師父」
     黑咻がこくんと頷いたのを背に小黑は表の部屋へ出ると、逸風が施療所を後にしようとしたところだった。
    「待って、逸風。……ぼく、一人でも話すよ」
    「小黑」
     逸風と北河が小黑の方を振り返った。
     北河が、自分を心配してくれているのはわかっている。でも。
    ──守られるだけで何もできないのは嫌だ。
    「昨日の奴の仲間がまだどこかにいるなら、また誰かがひどい怪我をしたり、死んだりするかもしれないんでしょ?」
     それに、師を殺そうとした者達の企みを止めるためなら、自分も何かしたかった。
    「ああ……そうだな。だけど、お前が辛い思いをしてまで、無理に昨日のことを喋る必要はないと俺は思う」
     北河が腕を組む。逸風が困ったように眉尻を下げた。
    「程大夫のご心配はごもっともなんだよ。普通に話すのと、事件について聞き取り調査を受けることは違う。もちろん、小黑がわかる範囲で答えてくれれば大丈夫だよ。でも、かなりのストレスを伴うことになると思う。僕は執行人として、今回の事件についての情報をできる限り集めなきゃいけないけど、無理強いしようとは思ってない。小黑が嫌なら、喋らなくていいんだ」
    「それでも、ぼく行くよ」
     引いてなるものか、と逸風の目を見る。ここで引いたら、ふたりの優しさに甘えて何もかもがくじけてしまいそうだった。
     うーん、と困ったようにカリカリと北河が首の後ろを掻いた。
    「逸風、俺が小黑に付き添うのは問題ないよな?」
    「ええ、大丈夫です」
    北河の問いに逸風が頷いた。
    「……小黑」
     北河が小黑の前で片膝をつく。小黑の両手をやんわりと握った北河の鹿皮棕色の目が、真っ直ぐにこちらを向いた。
     「お前が聞き取り調査に応じるなら、ひとつだけ条件がある。調査の中で、"嫌だ"とか"怖い"とか、少しでも何かあれば言うと約束してくれ。言うのは俺でも、逸風でも、誰でも構わない。それが条件だ。俺もお前の様子を見て、もう無理だと判断したら質問を止めさせる。……約束してくれるな?」
    「うん」
     頷いた直後、少しいいか、と小黑は北河に抱きしめられた。
    「昨夜の事件は、お前にとってものすごく負担だったはずだ。心にも、身体にも。……本当は、あんまり無理していい状態じゃない。ちゃんと休まなきゃいけないんだよ。お前は」
     さて、行こう。と北河は小黑の背を軽く叩いて立ち上がった。逸風に先導され、小黑は北河と手を繋いで館の中を執行人達の詰所へ向かう。いつも感じる館の喧騒が今日は遠く感じた。


    「……お、来たんだね。元気そうで良かった」
     北河がいるなら无限はどうにかなったんだな、と執行人の事務所で三人を迎え入れたのは大爽だった。大爽以外の聞き取り役として冠萱も加わった五人で詰所の奥に向かう。
     通された部屋は、窓もなく、奥に食器棚がある他は、机と椅子があるだけの無機質な部屋だった。冠萱に示された席に北河と並んで座る。その向かいに冠萱と大爽、逸風が座った。
    「…………っ…」
     小黑は息を呑んだ。聞き取りの部屋の扉が閉まった途端、无限の枕元に置いてきた黑咻との繋がりが切れた。黑咻を通じて感じていた、師の気配が分からなくなった。
    ──逸風が言ってたのは、これのことなんだ……。
     聞き取りの部屋は、外界からのありとあらゆる影響や接触を遮断するために術式が張り巡らされている、という、道すがら聞いた逸風からの説明を甘く見ていたのだと痛感する。
     これでは、黑咻の耳や目を通して感じていた師の様子がわからない。おそらく黑咻を使って无限のいる病室に自分を飛ばすこともできない。緊張に小黑は身を固くした。
     大丈夫か、と北河がこちらを見る。
    ──落ち着け。師父の状態は心配ないって北河も言ってたじゃないか。
     小黑は北河に頷いて見せた。
     花輪が人数分のお茶と茶菓子の載った盆を出していった。さっそく大爽が盆の甜蘇餅に手を伸ばし齧る。北河が茶杯に口をつけたのに倣って、小黑もお茶を飲んだ。緊張に渇いた喉を、柔らかい口当たりのお茶が潤していく。
     冠萱が口を開いた。
    「そろそろ始めましょうか。昨夜、何があったのか、一通り話してください」
    「…えっと……歩いてたら、師父に突き飛ばされて…顔を上げたら師父が、……刺されてた。それで──」
     冠萱の昨夜の事件についての質問に、何をあの妖精に言われたのか、どんな会話があったか、小黑はところどころつかえながらも答えた。主に冠萱が質問し、時折大爽が口を挟む。いくつか顔の描かれた巻物を見せられ、見覚えのある顔、そうでない顔を訊かれた。逸風は記録担当であるらしく、様子を見ながら無言で手元のボードに書き取っていく。机の上に何か機械があるので、音声記録もとっているようだ。机の下で北河が手を握ってくれたのが、心強かった。
     「……昨日の公園を調査した鳩老の報告だと、妖精の痕跡は君と无限様が相対した妖精の他に、もう一人分あったのですが、心当たりはありませんか」
     冠萱がしばし見ていた手元の書類から顔を上げて言った。
    「……わかんない……」
     小黑はかぶりを振った。あの時は、小黑は无限の動きを追いサポートすることで手一杯だった。攻撃を仕掛けてきたり何かなければ、誰か他にいたかなど把握する余裕は無かった。
    「範囲を広げようか。昨日に限らずここ数日の間で、館の者や知り合い以外で誰か知らない妖精と会ったりしなかったかい」
     大爽が助け舟を出す。
    「知らない妖精……」
     小黑は大爽の言を復唱し思い返す。
    「……あ…」
    ひとつだけ、思い当たることがあった。
    「何かあるのか?」
     北河の問いに小黑は頷いた。
    「うん、一昨日あの公園を歩いてた時に、たまたまぶつかったのが、妖精だった……けど……」
     あれは急に駆け出した小黑の不注意で、ごめんなさいと謝ってそのまま別れたのだった。事件と関係がありそうにない。
     念のためだ、と小黑は机の上に置かれた巻物の一つを大爽に手渡された。
    「その妖精の顔、思い出せたら思い出して欲しい。それを額につけて、その妖精のことを思い浮かべてくれ」
    小黑は言われるまま巻物を額に付け、目を閉じた。
     翠緑の目。ふわふわとした短めの茶髪が右目を覆い隠していた。気を付けろよ、と快活に笑った青年の姿。去っていくその妖精の背を、无限がしばらく無表情で眺めていたのが小黑は気になって、覚えていたのだった。
    「もういいですよ」
     冠萱が小黑の手から巻物を取り、机の上に広げた。
    「……この妖精ですね?」
     冠萱の示したそこには、先ほど小黑が思い浮かべた妖精の姿があった。輪郭がやや朧ろなのは、小黑の記憶がはっきりしたのものではないからだろう。少なくとも、先程冠萱達から見せられた巻物の妖精達とは別の者だった。
    「うん」
    小黑は頷いた。
    「執行人の監視下にあったけど何年か前に行方不明になった妖精に、こんな感じの人いませんでしたっけ……」
    「……无限と小黑がここ一週間、何度も例の公園を通ってたってことなら……こいつに"網"を張られてたのかもしれないな……」
    逸風が首を傾げ、大爽が呟いた。
    「本当に残党かはともかく、彼については要調査ですね。お疲れ様でした、小黑」
     冠萱が微笑んで言った。よくやった、と大爽が小黑の頭をくしゃくしゃと撫でていく。
     部屋を出た途端、小黑と黑咻との繋がりが戻った。无限の気配が部屋に入る前と同じ様子であることに、小黑はほっと息をつく。
    ──よかった、師父は大丈夫だった………。
     聞き取りの間、それが気がかりだった。
    「小黑、本当にありがとう。おかげで手がかりがひとつできたよ。程大夫の言う通り、今日はゆっくり休んで」
     逸風に見送られ、小黑は北河と彼の施療所へと戻った。

     夜中、无限の眠っている病室で小黑は長椅子に横になっていた。館の聞き取り調査から戻ってからというものの、どうにも身体が重たい。師に修行でしごかれたのとは全く違う疲れだった。なのに、妙に目が冴えて眠れない。小黑は何度目かの寝返りをうった。
    「大丈夫か」
     北河が湯気の立つ茶壺の載った茶盤を持ってきた。
    「眠れない……」
     小黑は起き上がって答えた。
     そうだろうと思った、と北河は小黑の隣に座り茶杯を差し出した。勧められるままに茶を口に含むと、普段飲むお茶とは違う香料の香りがして小黑は目を瞬かせた。
    「……いつものと違う?」
    「ああ、俺が昔開発した香料入りの茶だよ。身体を温める生薬が調合してあるから、風邪なんかによく効くんだ」
    「ぼくは妖精だし風邪なんかひかないけど」
    「まあな。けど、かなり眠りやすくなるはずだ」
     北河が静かに笑う。
     彼の骨ばった、乾いた手が小黑の手をさすっていく。北河の指先が小黑の手首のところで止まった。脈をとっているようだ。
     ──そういえば、聞き取りの間もずっと、こうやっていてくれたんだった。
    「ねえ、北河」
    「うん?」
    「今日は、ありがとう。たぶん……北河が手を握ってくれてなかったら、あんなに話せなかった」
    「おう。お役に立てたようで何よりだ。……お前は今日、本当に頑張ったよ」
     北河の手が小黑の頭を優しく撫でていく。
    「お前は強いよ。何にでも立ち向かえる。ただ、そのせいでお前が壊れてしまうようなことには、ならないで欲しい」
     北河に手をさすってもらううちに、小黑は手の指先や足の爪先がじんわりと温まっていくのを感じた。小黑の思うよりも身体が冷えていたらしい。身体が温まるのに伴って眠たくなり、小黑は目を擦った。
    「……効いてきただろ」
    「ほんとだ」
     小黑は横になった。その肩を、北河が優しく一定のリズムで叩く。
    「晩安」
     とろとろと、まどろみの中に小黑は落ちていった。
    (早く起きてくれよ、无限。この子のために。)
     寝入り端、そうため息まじりに北河が師に言ったのが、聞こえたような気がした。
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