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    高間晴

    @hal483

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    高間晴

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    お題箱より頂いた、「ひたすらモさんを褒めちぎるチェズ」。
    なんか手違いで褒めるというよりは好きなところを挙げていますがご容赦ください。

    #チェズモク
    chesmok
    ##BOND

    ■このあと美味しくいただきました。


     チェズレイは目的のためならかける手間を惜しまない男だ、とモクマは思う。
     ふらりと出かけ、数時間ほどでセーフハウスに帰ってきたチェズレイを玄関で出迎える。その手にはケーキが入っているらしき箱と茶色の紙袋があった。甘いものに目のないモクマは嬉しそうに笑う。
    「チェズレイ。それお土産? ケーキ?」
    「タルトです。苺が旬なのも今のうちですし、買ってきました。一緒に食べましょう」
     そう言いながらキッチンのダイニングテーブルに箱と紙袋を置く。待ちきれずにモクマが箱を開けてみると、たっぷりの真っ赤な苺がクリームの上に乗ったタルトが二切れ入っている。テーブルに手をついて箱を覗き込みながらモクマはお伺いを立てる。
    「あ、おじさんコーヒー淹れよっか? タルト甘いだろうからブラックで――」
    「いえ、クリームを使ったタルトに合わせるなら油分のあるコーヒーより、口の中がさっぱりするストレートの紅茶ですね」
     それを聞いてモクマは首を傾げる。紅茶。コーヒー豆ならあったけど、茶葉なんてなかったはずだ。そこで隣に置かれている紙袋に目が行く。チェズレイはその中からアルミの小袋を取り出した。それにはラベルが貼ってあって、ひと目で茶葉だと分かる。用意のいいやつだなぁ、とモクマは内心こっそり微笑む。
    「おじさん紅茶を茶葉から淹れたことなんてないから任せるよ」
    「はい。モクマさんは皿とフォークを準備していただけます? あとマグカップも」
    「あいよ」
     もはや暮らして数ヶ月の勝手知ったるキッチン。ともに生活をしてそこそこ長いモクマは、チェズレイが料理の見栄えも重視することを知っている。なので食器棚から苺の赤い色が映えるだろうシンプルな白の小皿を二枚選ぶ。マグカップはいつも使い慣れたおそろいのやつ。チェズレイのは淡い藤色、モクマのは卵の黄身を思わせる柔らかい黄色。続いて引き出しを開け、カトラリー類の中からデザート用の小ぶりな銀のフォークを二本。それを持ってダイニングへ戻ろうとすると、チェズレイがコンロの前で水を入れたケトルを火にかけていた。その脇を通り抜け、ダイニングテーブルに皿とフォークを重ねてマグカップを並べる。それから声を投げた。
    「ねえ。お前さんが紅茶淹れるの見てていい?」
    「構いませんが、見ていて面白いですか?」
     チェズレイが袋から空のキャニスターに茶葉を移しながら、少し不思議な顔をするので、モクマは口の端を上げる。
    「お前の真剣な横顔、好きなんだよ。特に左側から見るのが」
     それを聞いてチェズレイは少し驚いたように目を瞠ると、すぐに目を細めた。左目の周りを彩る花びらがたわむ。
    「そんなこと言っても何も出ませんよ。本当に軽口のナンパ癖は治りませんねェ、あなた」
     手元を向いて小さく笑うチェズレイに「本当だってば」とモクマは言い募る。そしてチェズレイの左側、邪魔にならない程度の間合いを取って隣に来ると頭一つ分くらい高いチェズレイの横顔を見上げる。
    「その紅茶、どんなやつなの? 茶葉にも色々あるだろ?」
    「ダージリンです。紅茶の中でも風味がミカグラでよく飲まれる緑茶に近いので、あなたの舌にも合うかと」
    「へえー」
     銘柄なんて聞いてもピンと来ないが、そう説明されればなんとなくわかる。
     チェズレイは熱湯を注いで温めた白磁のティーポットから湯を捨てる。茶葉を計量スプーンで計るとティーポットに入れ、お湯を注ぐと蒸らすために蓋をする。そこで棚の奥から引っ張り出して置いたのだろうか、五分の砂時計をひっくり返す。その間、モクマは手元に目線を落として紅茶の準備をする相棒の横顔をじっと眺めていた。やっぱり、いつ見ても綺麗だし好きだなと思う。
    「大きい茶葉なので五分間蒸らします。――さてちょっと時間が空きますね」
     そこでチェズレイが何かを思いついた顔をする。
    「モクマさん。紅茶を蒸らす間に、私があなたの好きなところを挙げようと思います」
     そう言ってモクマの方へ視線を向けるので、「へっ?」と思わず間の抜けた声が出てしまう。その顔を見ながらチェズレイは頬の傍に、手袋を取った素手の人差し指を添えた。
    「そうですねェ……まず濡れ羽色の小さな瞳。手触りの良い無精髭。照れた笑顔。私と一緒にお酒を飲む時の楽しそうな横顔。白髪の中に交じるまだ黒い髪」
    「えっ」
    「――意外と長いまつ毛。朝におはようを言う時にいつもついている寝癖。笑った時に下がる眉尻。たくましくて太い腕と脚。ご飯をいつも美味しそうに食べてくれるところ。柔らかくて少しふっくらした唇」
    「ちょっ」
    「お腹が空いたり眠い時に少し機嫌が悪くなるところ。まるいカーブを描く耳の形。それからぐしゃぐしゃの泣き顔。ほっとした時の気の抜けた微笑み。寝ている時、生死を心配させるくらい動かないところ。厚くて柔らかい胸板。腹筋の溝。ちくちくするすね毛。
     ああそれから潜入服を着ている時の、真剣な眼差しとゾクゾクするような殺気」
    「待って待ってチェズレイ! わかった、もういいから!」
     あまりにするする出てくる「好きなところ」をストレートにぶつけられたモクマが真っ赤になって叫ぶ。自分が「チェズレイの真剣な横顔が好き」なんてことを言ってしまったばかりの意趣返しだとしか思えない。
     チェズレイは、うつむいて耳まで赤く染めたモクマのつむじを見下ろしながら微笑む。
    「おや、まだまだあなたの好きなところはありますし、砂時計の砂は半分も落ちていませんが?」
    「チェズレイのいじわる……」
    「そうやってストレートに『好き』の感情を向けられると、キャパオーバーになってしまうあなたも大好きですよ」
     そう言ってチェズレイはモクマの傍に近寄ると、肩に手を置いて白髪のつむじにキスを落とした。そうされるともうモクマには為すすべがない。黄色い羽織の肩を縮こまらせたまま固まった。チェズレイは、ふふ、とうっすら唇に笑みを乗せる。
    「――さて、そろそろマグカップをこっちに持ってきていただけます? 紅茶はカップへ注ぐまでが時間との勝負なんです」
    「……はーい、わかったってば」
     モクマは照れて顔をうつむかせたままでチェズレイに背を向けると、ダイニングのテーブルからおそろいのマグカップを持ってチェズレイのところへ戻ってくる。
     そしてチェズレイは砂時計が五分を計り終えた瞬間にティーポットを持ち上げ、マグカップに注ぎ分ける。ふわりとふくよかに漂う紅茶のいい香りに、モクマは思わずほっと息をつく。
    「いい匂いだなぁ……」
    「はい、あなたの分です」
     そう言ってチェズレイから黄色のマグカップを渡されて、モクマはそれを両手で受け取る。マグカップに注がれた琥珀色の水面を見れば、自分の顔が映っていた。
    「さあ、紅茶が冷めないうちにタルトもいただきましょう」
     そうチェズレイに微笑みかけられれば、モクマにはもううなずく以外の選択肢がなかった。ついでに思い出したかのようにチェズレイは追い打ちをかける。
    「ちなみに女性に可愛いと声をかけ続けると実際に可愛らしくなるという説があるんですが、あなたで試しても――」
    「もうやめて! おじさんのライフはゼロよ!」
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    DOODLEチェズモク800字。結婚している。■いわゆるプロポーズ


    「チェーズレイ、これよかったら使って」
     そう言ってモクマが書斎の机の上にラッピングされた細長い包みを置いた。ペンか何かでも入っているのだろうか。書き物をしていたチェズレイがそう思って開けてみると、塗り箸のような棒に藤色のとろりとした色合いのとんぼ玉がついている。
    「これは、かんざしですか?」
    「そうだよ。マイカの里じゃ女はよくこれを使って髪をまとめてるんだ。ほら、お前さん髪長くて時々邪魔そうにしてるから」
     言われてみれば、マイカの里で見かけた女性らが、結い髪にこういった飾りのようなものを挿していたのを思い出す。
     しかしチェズレイにはこんな棒一本で、どうやって髪をまとめるのかがわからない。そこでモクマは手元のタブレットで、かんざしでの髪の結い方動画を映して見せた。マイカの文化がブロッサムや他の国にも伝わりつつある今だから、こんな動画もある。一分ほどの短いものだが、聡いチェズレイにはそれだけで使い方がだいたいわかった。
    「なるほど、これは便利そうですね」
     そう言うとチェズレイは動画で見たとおりに髪を結い上げる。髪をまとめて上にねじると、地肌に近いところへか 849

    高間晴

    MAIKINGチェズモクの話。あとで少し手直ししたらpixivへ放る予定。■ポトフが冷めるまで


     極北の国、ヴィンウェイ。この国の冬は長い。だがチェズレイとモクマのセーフハウス内には暖房がしっかり効いており、寒さを感じることはない。
     キッチンでチェズレイはことことと煮える鍋を見つめていた。視線を上げればソファに座ってタブレットで通話しているモクマの姿が目に入る。おそらく次の仕事で向かう国で、ニンジャジャンのショーに出てくれないか打診しているのだろう。
     コンソメのいい香りが鍋から漂っている。チェズレイは煮えたかどうか、乱切りにした人参を小皿に取って吹き冷ますと口に入れた。それは味付けも火の通り具合も、我ながら完璧な出来栄え。
    「モクマさん、できましたよ」
     声をかければ、モクマは顔を上げて振り返り返事した。
    「あ、できた?
     ――ってわけで、アーロン。チェズレイが昼飯作ってくれたから、詳しい話はまた今度な」
     そう言ってモクマはさっさと通話を打ち切ってしまった。チェズレイがコンロの火を止め、二つの深い皿に出来上がった料理をよそうと、トレイに載せてダイニングへ移動する。モクマもソファから立ち上がってその後に付いていき、椅子を引くとテーブルにつく。その前に 2010

    高間晴

    DOODLEチェズモク800字。とある国の狭いセーフハウス。■たまには、


     たまにはあの人に任せてみようか。そう思ってチェズレイがモクマに確保を頼んだ極東の島国のセーフハウスは、1LKという手狭なものだった。古びたマンションの角部屋で、まずキッチンが狭いとチェズレイが文句をつける。シンク横の調理スペースは不十分だし、コンロもIHが一口だけだ。
    「これじゃあろくに料理も作れないじゃないですか」
    「まあそこは我慢してもらうしかないねえ」
     あはは、と笑うモクマをよそにチェズレイはバスルームを覗きに行く。バス・トイレが一緒だったら絶対にここでは暮らせない。引き戸を開けてみればシステムバスだが、トイレは別のようだ。清潔感もある。ほっと息をつく。
     そこでモクマに名前を呼ばれて手招きされる。なんだろうと思ってついていくとそこはベッドルームだった。そこでチェズレイはかすかに目を見開く。目の前にあるのは十分に広いダブルベッドだった。
    「いや~、寝室が広いみたいだからダブルベッドなんて入れちゃった」
     首の後ろ側をかきながらモクマが少し照れて笑うと、チェズレイがゆらりと顔を上げ振り返る。
    「モクマさァん……」
    「うん。お前さんがその顔する時って、嬉しいんだ 827

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    DONEタイトル通りのチェズモク。■愛してる、って言って。


     チェズレイはモクマとともに世界征服という夢を追いはじめた。そのうちにチェズレイの恋はモクマに愛として受け入れられ、相棒兼恋人同士となった。
     あのひとの作った料理ならおにぎりだって食べられるし、キスをするのも全く苦ではないどころか、そのたびに愛おしさが増してたまらなくなってくる。ただ、それ以上の関係にはまだ至っていない。
     今日もリビングのソファに座ってタブレットで簡単な仕事をしていた時に、カフェオレを淹れてくれたので嬉しくなった。濁りも味だと教えてくれたのはこのひとで、チェズレイはそれまで好んでいたブラックのコーヒーよりもすっかりカフェオレが好きになってしまっていた。愛しい気持ちが抑えられなくて、思わずその唇を奪ってしまう。顔を離すと、少し驚いた様子のモクマの顔があった。
    「愛しています、モクマさん」
     そう告げると、モクマはへらっと笑う。
    「ありがとね。チェズレイ」
     そう言って踵を返すモクマの背を視線で追う。
     このひとは、未だに「好きだよ」だとか「愛してるよ」なんて言葉を言ってくれたことがない。キスも自分からしてくれたことがない。まあ二十年もの間 2609