記憶の灯り 雲深不知処に戻って来た思追は、部屋の扉を閉めると急激に疲れを感じた。義城での事件は、思追達にとっては初めてのことばかりで目が回るようだったから、疲れ切っているのは確かだ。
「はぁー……疲れた」
「もう景儀、そのまま寝ないでよ」
先に部屋に入った景儀がそのまま寝台に倒れ込んでいるのを見ながら、旅の荷物を片付ける。そして、持ち帰った灯篭を枕元に飾ろうとして、置き場所に悩んでいると景儀に後ろから声を掛けられた。
「飾るのか。律儀だな」
「だって、含光君からこんな風に何かを頂くのは珍しいし」
「まぁ、確かにそれもそうだな」
灯篭に描かれている兎を見ると、含光君が日頃から慈しんでいる兎達を思い出して頬が緩んでしまう。この灯篭を手渡してくれた時の含光君の顔を思い出すと、思追はどこか懐かしい記憶が引き出されるような気がして胸に手を当てた。
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