Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    tknens

    @tknens

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 1

    tknens

    ☆quiet follow

    モブのユニーク魔法で頭の中まで猫になったジェイドがアズールに甘える話です。

    #ジェイアズ
    j.a.s.

    ジェイドが猫になった。
     相手を猫に変えることが出来るユニーク魔法の持ち主と魔法を弾き返すユニーク魔法の持ち主が廊下で争っていたところに運悪く居合わせ、弾かれた魔法に当たってしまったのだと事情聴取したクルーウェルから聞かされて、アズールはジェイドにしては間抜けですねぇという感想を抱く。椅子に座ったアズールの膝の上には猫になったジェイドがどっしりと乗っかり、ふわぁと大きなあくびをしている。ジェイドは人前で大きな口を開けることを恥ずかしがるのであくびをするなど珍しいが、知能も猫並みになっているらしいのでその所為だろう。ボリュームたっぷりの長毛は髪の毛と同じターコイズブルー。骨太な骨格にがっしりとした力強い四肢。トレインの飼い猫であるルチウスやオンボロ寮のマスコットであるグリムよりも大分大きな猫である。瞳の色はジェイドと同じゴールドとオリーブグリーン。頭の天辺からひょろりと一房黒いメッシュが垂れ下がっているのまでジェイドそっくりだ。いや、ジェイドが猫になったのだから似ていて当然なのだが、あまりにも特徴そのまますぎて面白い。
    「ジェイドがこうなった事情は分かりました。それで、これはいつ戻るんですか?」
    「それなんだが、ユニーク魔法の持ち主によると三日はそのままらしい。普段であれば解除も出来るようなのだが、先程の魔法を使用した喧嘩でブロットがかなり溜まってしまっていて、教師としてはこれ以上魔法を使わせられないと判断した。リーチ兄には悪いが自然に解けるまで待ってもらうしかない」
    「三日も? ジェイドはオクタヴィネル寮の副寮長なんですよ。様々な雑事をこなしてもらってますから居ないと困ります。モストロ・ラウンジの仕事もありますし、授業だって三日も受けられないんですか?」
     ジェイドは優秀なので三日の遅れくらいすぐに取り戻すだろうが、学生の本分は勉強である。それを強制的に三日間も取り上げられるとは何事か。それに何より、アズールにとって問題なのがモストロ・ラウンジのことである。今日を含めて三日間、全てにジェイドのシフトが入っているのだ。しかも彼の場合、スタッフたちの統括という立場もある。副寮長の仕事はアズールが何とかするとして、正直ラウンジの仕事まで手を回すのは出来なくはないが大変だ。フロイドの機嫌が良ければそちらに押し付けられるが、フロイドの機嫌は山の天気よりも変わりやすいのである。
    「授業に関しては後程課題を提出してもらい出席扱いにしようと考えている。副寮長の仕事とラウンジの仕事に関してはどうにもしてやれんが、三日間副寮長が不在になったくらいで回らなくなるような寮運営をしている訳ではないだろう?」
     クルーウェルにそう問われると頷かざるを得ない。プライドの高いアズールは副寮長が三日不在なだけで瓦解するような寮運営をしているとは思われたくない、というのをこの教師は理解しているであろうところが腹立たしいが、頷く以外の選択肢はないのである。
    「わかりました。授業に関しては特別措置をお願いしますよ。それと、ジェイドをこうした犯人たちについてなのですが、当然彼らが回復した後に『お話し』する機会を設けて頂けるんですよね?」
     アズールがそう訊ねるとクルーウェルははぁと一つ大きなため息をついた。
    「謝罪には向かわせる予定だが、あまりはしゃぐなよ、子犬共」
    「ええ、わかっていますよ、先生」
     謝罪に来るならそれで良い。その際にこの三日間の損失を彼らに補償してもらわねば。そう考えながらアズールは機嫌よさそうにしている猫のジェイドを抱えて立ち上がった。

    ***

    「うわぁ~、これジェイド? あはっ、めっちゃ可愛くなっちゃったじゃん」
     アズールから猫になったジェイドを受け取ったフロイドは寮服に毛が付くことも厭わずジェイドを抱きしめて腹に顔を埋めた。猫にしてはかなり大きいジェイドだが、長身のフロイドに抱えられると一般的なサイズの猫に見えるなと思いつつ、アズールはVIPルームの椅子に腰かける。
    「見ての通りジェイドが猫になってしまったので、今日から三日間ジェイド抜きでシフトを回さなくてはなりません。ということでフロイド、今日はキッチン担当の予定を変更してホールの統括として働いてほしいのですが」
     ホールの統括と聞いたフロイドはジェイドの腹から顔を離し、肉球をぷにぷにしながら顔を歪めた。
    「気分乗らね~。猫のジェイドと遊んでいたいんだけど」
    「シフトが終わってから遊べばいいでしょう。三日間はこのままなのでまだ機会はありますよ」
    「でもどーせ明日も明後日もシフト入れって言うでしょ。俺明日は休みの予定だったのになぁ~」
    「ジェイドが居ないんですから穴を埋めるためにはお前に働いてもらう他ないんですよ」
    「俺じゃなくてもいーじゃん。ほら、最近ジェイドが補佐みたいに使ってた小魚ちゃんいたでしょ。あれに任せるとか」
    「まあ確かに三日間のうち一日くらいは出来なくないですが」
    「じゃあ今日と明後日は頑張るから明日はオレお休みね。ジェイド~明日はいっぱい遊ぼうねぇ」
    「んなぁ」
     意味が分かっているのかいないのか、フロイドに話しかけられたジェイドは鳴いて「はい」と返事をすると甘えるようにフロイドの寮服に頭を擦りつけた。フロイドが片手でジェイドを抱えつつもう片方の手で顎の下を撫でるとごろごろと喉を鳴らす。
    「ジェイドかわいい~。顎の下気持ちいんだ? 猫みたい。あ、猫だったわ」
    「フロイド、猫の毛が付きますからそのあたりにしておきなさい。ほら、あと十五分でシフトの時間ですよ。毛まみれで接客するなんて許しませんからね」
     引き出しの中から粘着クリーナーを取り出して渡すとフロイドはジェイドを床に下ろして受け取った。フロイドの腕から下ろされてしまったジェイドは「にゃう……」と名残惜しそうにフロイドを見つめていたが、フロイドが「ごめんねぇ」と謝ると、抱っこしてはもらえないと理解したらしく、大人しくふわふわの足を揃えて床の上に座った。猫と言うよりも犬っぽいなと思っていると寮服に粘着クリーナーを転がしながらフロイドが訊ねてくる。
    「てか俺がラウンジの仕事してる間ジェイドどうすんの? 部屋で一人で留守番させとく?」
    「頭の中まで猫になっているとはいえジェイドですからそれでもいいかと思いますが……うっかりテラリウムにぶつかって落としでもしたら大変です。心配なのでここで僕が預かります」
    「オレはテラリウム壊れてくれた方が良いんだけど」
    「割れたガラスでジェイドが怪我したらどうするんですか」
    「あっそれはダメ。テラリウムは壊れていいけどジェイドが怪我すんのはヤダ」
    「そうでしょう。なのでここで預かります。飲食店に猫を持ち込むわけにはいきませんから僕は今日ここにこもりますので何かあったら内線を下さい」
    「りょうか~い。ジェイドいい子にしててね。じゃあ行ってくるねぇ」
     フロイドがVIPルームから出て行くのを名残惜し気に見守っていたジェイドはパタンと扉が閉まる音を聞いてうなだれた。それが少々、本当に少々哀れに思えてしまったのでアズールは椅子から立ち上がり、ジェイドに近づいた。手袋を外して長くてふわふわの毛に覆われた頭を撫でるとジェイドはぴこんと耳を動かしてアズールの方に視線を向ける。
    「さ、フロイドが戻ってくるまでここでいい子にして待っていてくださいね。水はあそこに置きましたからお好きな時にどうぞ。ああそうだ、遊び道具があった方が良いですかね。確かイデアさんが部室に猫用の蹴りぐるみを置いていたはずなのでちょっと拝借させてもらいましょうか」
     猫好きな先輩の私物のことを思い出して連絡を取るべくスマホをポケットから取り出そうと手を離すとジェイドから「うなぁ~お」と不機嫌そうな声が上がった。
    「どうしましたかジェイド? 何か気に入らないことでも?」
    「にゃうう、うなぁ~、なぁ~~お」
    「おもちゃはいらない? お前がそう言うなら借りなくてもいいですかね。それでは、僕は仕事に戻りますので大人しくしていて下さいね」
     不機嫌そうにおもちゃはいりませんと主張するジェイドの頭をもう一度撫でて、動物言語学を学んでいてよかったなと思いながら椅子に戻る。椅子の位置を調整し、さて、ラウンジの書類仕事の前に寮長としての仕事を片付けねば、と思いながらペンを手に取ったところで机の上にターコイズブルーの塊がとすんと音を立てて登ってきた。
    「ジェイド? どうかしましたか? えっ、ジェイド!?」
     ジェイドはピンク色の肉球で書類を容赦なく踏みつけながらアズールに近づいてくると猫にしては規格外の巨体を机とアズールの腹の間に無理やりねじ込むようにしてアズールの膝の上に乗り上げた。良いポジションを探るように二、三度膝の上で回転し、ここぞという場所を見つけると四肢を折りたたんで丸くなる。
    「にゃうにゃ」
    「いや、『どうぞ』ではなく。お前のせいで机が遠いんですが……」
     ジェイドが無理やり乗り上げてきたことでキャスター付きの椅子が後方に押され、アズールと机の間には適切とは言い難い距離が出来ている。机の上の書類に文字を書くことは出来なくはないが腕をいつも以上に伸ばさなくてはならないのでかなりつらい。これでは仕事にならないとジェイドを抱えて膝から下ろしてみたりもしたが、気に入りませんとばかりに鼻を鳴らしてまた机の上に乗りあげ、今度は書類の上に座りこんでしまった。足を揃えて机の上に座り、アズールの方を見つめるジェイドの瞳には非難の色が宿っている。
    「何なんですかお前。お前が欠けた穴を埋めなきゃならないのにこれじゃ仕事になりません」
    「うなぁう。にゃご、にゃぁ、みゃ~お」
    「膝の上に乗せてくれたら大人しくするだと? お前が膝に乗ると机が遠くて大変なんだが」
    「んみゃぁ。にゃう」
    「知りません、って……そう言われても困るんですけど。フロイドが戻ってきたら遊んでくれますから今は大人しく……」
    「うにゃお!」
    「わっぷ、こらっ、やめろって!」
     再度床に下ろそうと手を伸ばすと、ジェイドは嫌ですと拒否してふさふさの毛で覆われた長い尻尾をぶんっと振った。ジェイドの尻尾が直撃し口の中に毛が入ったアズールは顔を顰めるが、二度三度と尻尾でぽすぽす叩かれているうちに何だか馬鹿らしくなってきてしまった。ジェイドは今現在猫である。頭の中身も猫に近い。動物は本能で生きるものだ。つまり今のジェイドに理屈は通用しないと思った方が良い。何を言っても無駄だ。好きなようにさせるしかないだろう。決して、決して尻尾のふわふわ具合に何もかもどうでもよくなったわけではなく、理性的に考えた上でこれはもうお手上げだと判断したのである。自分の中でそう言い訳したアズールはぽすぽすと顔に打ち付けられるジェイドの尻尾を片手で止めてため息をつくとジェイドを抱え上げた。
    「やはり重いですね。どこかの国の拷問に重い石を膝に乗せるというものがあった気がします」
    「うなぁ~」
    「心外です、と言われても重いものは重いですよ……っと」
     VIPルームに設置してあるソファ―の上にジェイドを下ろし、アズールは一度机に戻る。アズールが離れてしまうと思ったのか、ジェイドもふわふわの毛に覆われた足を動かしてついてきたが、いくつかの書類とバインダーを取ったらすぐに戻るつもりのため好きにさせる。足元にジェイドが身体を摺り寄せるせいでスラックスは毛まみれだったが上半身も似たようなものだ。寝る前に手入れすればいいだろう。
     書類とバインダーを手に取ってソファーに戻る。ついてきたジェイドを抱え上げて膝の上に乗せるとジェイドは「にゃぉ」と満足げに鳴いた。こんな姿、ジェイドが人間や人魚の姿の時には見ることが出来ないなと苦笑しつつ首の下を撫でるとごろごろと気持ちよさそうに喉を鳴らす。はじめは片手でジェイドをあやしつつもう片方の手で書類を持って中身の確認だけするつもりだったが自分以外のものにアズールが気を取られているのが面白くないようで、アズールが書類を手にしようとすると目ざとく気付いて尻尾で書類を叩き落そうとしてくる。
    「ああもう、全く仕事になりません。はああ……仕方ない。今日はお前にとことん付き合ってやりますよ」
     こんな珍しい姿を見られるのは今だけであるし、今日の分は明日取り返せばいいだろう。これは明後日もフロイドをシフトに入れずにジェイドの面倒を見てもらった方が良いかもしれないなと考えながら、猫になったジェイドの柔らかい毛並を堪能する。
     この時のアズールはフロイドと共に自室に戻ったジェイドがアズールが一緒じゃなきゃ嫌ですとごねて一晩中鳴き通し、耐えられなくなったフロイドによって部屋に投げ込まれることも、明日、明後日の授業中もジェイドを連れ歩く羽目になることも、全く予想していなかった。

    END


    *****


     猫になっていた時の頭の中がやけにクリアだったことを覚えている。思考は単純化され、眠い、喉が渇いた、お腹が空いた、これは好ましい、これは嫌だ、と、ただ心が赴くままに身体が動いた。
     中でも特に心惹かれたのはアズールの膝の上だった。もちろん兄弟であるフロイドに抱えられるのも好ましくはあったし、床に下ろされれば悲しい気持ちになった。もっと触れていてほしかったし、姿が見えないのは嫌だった。しかしそれ以上に猫になった僕はアズールの膝の上を気に入っていた。下ろされると不安だったし、あのスカイブルーの瞳が僕を見ていないのは不愉快だった。猫の脳味噌とは恐ろしいもので、常日頃アズールへの執着にも等しい感情を押さえつけている理性が全くと言っていいほど作動しない。どこに行くにもアズールと一緒が良かったし、アズールの仕事を邪魔してでもとにかくアズールに僕を優先していてほしかった。アズールの膝の上に乗りあげ、アズールが両手で僕を撫でまわしてくれている間はアズールの全てを独占できている。そんな多幸感に包まれて、僕の喉がごろごろと鳴る。するとアズールは「仕方ありませんね」と言いながらも撫で続けてくれるのだ。身に余る幸福感にこのままこの時が続けばいいのにと思っていた。
     僕にとって幸運だったのは幸せ過ぎたことで声にならなかったことである。アズールは僕がアズールに対して抱いている思いを知らない。恋と呼ぶには濁りすぎて、愛と呼ぶには尖りすぎている、重たくて大きな執着を知らない。伝えてしまいたいと思うことはあったけれど、僕の感情がアズールを押しつぶしてしまうのが嫌だった。彼にはいつまでも面白いままで居てほしい。今の彼にはあのスカイブルーの瞳を煌めかせて、前だけを見ていてほしい。僕たちは動物言語学を学んでいるので猫の言葉がわかる。うっかり僕の重たい感情の片鱗でも見せてしまっていたら、猫からヒトに戻った時に後悔に包まれていただろう。僕の感情によって左右されるアズールを見たい気持ちもなくはないが、それを見るべき時は今ではない。いずれは、と考えているが、そのタイミングは理性を持っている僕が判断するべきことだ。ああ本当に、猫の僕が何も声にしなくてよかった。これから先の僕の楽しみを失うことがなく、三日間もアズールを独占できて、僕は本当に運が良い。

    END
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ☺❤❤❤❤😍😍❤❤❤❤❤💕💯❤💞💞
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    tknens

    DOODLEモブのユニーク魔法で頭の中まで猫になったジェイドがアズールに甘える話です。ジェイドが猫になった。
     相手を猫に変えることが出来るユニーク魔法の持ち主と魔法を弾き返すユニーク魔法の持ち主が廊下で争っていたところに運悪く居合わせ、弾かれた魔法に当たってしまったのだと事情聴取したクルーウェルから聞かされて、アズールはジェイドにしては間抜けですねぇという感想を抱く。椅子に座ったアズールの膝の上には猫になったジェイドがどっしりと乗っかり、ふわぁと大きなあくびをしている。ジェイドは人前で大きな口を開けることを恥ずかしがるのであくびをするなど珍しいが、知能も猫並みになっているらしいのでその所為だろう。ボリュームたっぷりの長毛は髪の毛と同じターコイズブルー。骨太な骨格にがっしりとした力強い四肢。トレインの飼い猫であるルチウスやオンボロ寮のマスコットであるグリムよりも大分大きな猫である。瞳の色はジェイドと同じゴールドとオリーブグリーン。頭の天辺からひょろりと一房黒いメッシュが垂れ下がっているのまでジェイドそっくりだ。いや、ジェイドが猫になったのだから似ていて当然なのだが、あまりにも特徴そのまますぎて面白い。
    「ジェイドがこうなった事情は分かりました。それで、これはいつ戻るんで 6269

    related works

    recommended works