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    Lionsomps

    ラウヴァアアアアアアアン!
    14の二次小説とか>http://studiosxr.web.fc2.com/index.html
    おえかき練習中

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    Lionsomps

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    ちょぎがみ

    やっぱりもうちょっとだけ続くんじゃよ

    ***********「いいじゃんいいじゃん!一軒家に庭があって!」

    加州清光がリクライニングベッドに座り書類を読んでいる各務の隣にまるで愛人の様に寄りって肩にもたれかかっている

    「こーんな窓のない光も当たんない場所じゃ主ますますもやしになっちゃうよ。ここなら縁側で日向ぼっことか出来るじゃん?」
    「ちゃんと昼と夜が廻るのかい・・・?そんな不思議なまやかしが本当に出来るのだね。もしや四季も?それは素晴らしい。庭に何を植えようか」

    歌仙兼定も加州の後ろから広げた書類をのぞき込み、ふむ、と考え事を始めている

    「梅と桜は外せないね。あとは楓と・・・ああ椿や山茶花も植えなければ。庭に茶室はあるかい?」
    「こらこら”本丸システム”の大事な検証テストとして向かうんだ。只別荘が与えられる訳じゃじゃないんだぞ?」

    蜂須賀虎徹がベッド横に置かれた椅子に腰かけはしゃぐ二人を窘めるが、彼の表情もまた楽し気でやはり視線は書類の図面に釘付けだ

    「ほんま不思議な術だのう。人っちゅうもんは世界だけじゃ飽き足らず宇宙の次はいじげん?を開拓するちゅうんじゃからな・・・ほんまワクワクするぜよ!」

    陸奥守吉行が新しい旅立ちにはしゃぐ子供の様に声を上げた。

    「まずは小さな時空間で”本丸システム”の検証を行ってほしい。今後そこを拠点に規模を大きくして行くんだ。いずれはそこが”都市になる”」

    そんな様子を微笑まし気に見ていたのは袴姿の老人、イブキだった
    彼にしても十分老人と言える年齢であったが矍鑠とした立ち姿で武人のような気迫を纏っていてる

    「ほぇー。そこまででっかくなるんかあ?洞窟みたいに掘るんかの?」
    「うーん、どちらかというと風船が膨らむようなものだね。だがそれが出来るのはかなり先の話だ。現在の技術とエネルギーではその本丸システムを一つ維持するのが精いっぱいだ。まず一つの空間をどこまで安定させられるかの実験場になる」

    その説明に皆が皆真剣に耳を傾けている中、ガサガサと袋を漁る音が聞こえた

    「・・・山姥切。その玉子ボーロは主への差し入れなんだ。一人で食べるつもりか」
    「まだ袋は他にもあるぞ」
    「ハハハ、いいんだよいいんだよ。皆の分もあるし幾らでも持ってくるさ」

    かつて2012年のあの事件の為に用意されたこの部屋は現在各務の「本丸」となっていた。居住エリアも増設され私室も用意されている
    各務は相当な高齢となっており筋肉が落ちすっかり痩せこけて、あのボサボサとした髪もすっかり薄くなり頭に張り付いている。張り付いているのは加州がまるで猫の毛づくろいの様に撫でつけているからなのだが。

    「じゃあ、各務さん。その日まで十分体調を整えておいて下さいよ」

    やや遠い耳に聞こえるように、優しく大きな声でそう告げた

    「主の体調管理はオレ達がこーんなにお世話してるんだよ?大丈夫に決まってるじゃん。こんな箱みたいな部屋に閉じ込めてるほうが体に悪いんだから早く引っ越させてよね」
    「こら加州。このプロジェクトの最高責任者相手にそんな口を聞くんじゃない」
    「いいんだよいいんだよ」

    イブキはまるで見舞いに来た孫だな、と苦笑しつつ私室のドアからこの「本丸」の玄関でもある執務室へ続く廊下に出た

    「イブキさん」

    背後から追いかけてきたのは山姥切国広だった

    「何だい?」
    「本当に大丈夫なのか」
    「ああ、大きな病が無いとはいえ、年齢的には確かに心配だろうね。本当は他に候補がいたのは事実だ」
    「・・・だったら、何故」
    「各務さんが自分から申し出てきたんだ。あの、自分からは何も言わないあの人がだよ」

    山姥切はおそらくその可能性も察していたのだろう。その言葉を聞いてやはりなというフッと笑いも含んだ軽い溜息を吐いた

    「長義君もそれに賛成してね。初めての何が起こるか解らない計画だ。審神者として一番経験の長い者を行かせるべきだと・・・まあ、老い先短い命なら一番惜しくは無いだろうという少々無茶な論調ではあったけどね。それで皆を説き伏せた」
    「・・・あいつ」

    山姥切は少し怒りを込めてそうつぶやいたが、そんな無茶も各務の意思を通す為なのだろうという事は解っているのだろう

    「このプロジェクトはかなり昔から進められていたらしいんだが、成功への決定打が中々見つからなかった。そこに私という、かつて鬼の依り代として「虚」と繋がったピースが手に入った。本来なら只の空想でしかない超常現象を修行や科学だけで到底実現出来る訳がない。だが私はそれを”体験”していた。だから実現出来た。そこから加速的に進んだのさ。酒呑童子の持ち込んだ理さえも”正史”にしてしまった。・・・これが正史なら実験は成功する。必ずだ。例えその間にどんな失敗が在ろうとも成功に辿り着く」

    イブキは苦笑した。酒呑童子の真実。自らのあの泥の中の様な生い立ちさえも全てが運命として繋がってしまうのかと

    「それはどういう意味だ」
    「各務さんが自分の意思で皆を動かし未来へ進んだ。それが正史だという事だよ。山姥切国広」

    目の前の水色の瞳を見つめ、噛みしめるようにイブキは言った

    「審神者に纏わる存在は決して記録に残さない。残ってしまえば歴史修正者が干渉してしまうからね。だから、各務さんの名は、このプロジェクトの結果も、成功したのかも事故があったのかも、すべて詳細を残されることは無いだろう。彼もそれを理解している。解るだろう?」

    山姥切国広はこくりとうなずいた。寡黙だが、与えられた役目をあそこまで真っ当出来る男だ。最後まで審神者として殉じたいと、強い信念を理解していると言う様に

    「資質があれば特殊な能力が無くても部隊を運営させられる本丸システム、そのナビゲーターとして設計されたのが君たち”始まりの5振り”だ。よろしく頼んだよ」
    「・・・ああ」

    「おや、来ていたのかイブキさん」

    執務室から廊下に出る扉がかちゃりと開かれて、そこから登場したのは山姥切長義だった

    「ああ、計画の詳細を渡しておいたよ」

    その姿に山姥切国広は咄嗟にフードを深く下げ顔を反らした

    「やあ、君もちゃんと読んでおくんだぞ。”本丸の主”を精々支えてくれたまえ。偽物君」
    「・・・写しは偽物じゃない」

    相変らずのやり取りを飽きずに交わし、長義は主のいる私室へと入って行った

    「・・・なんだってこんな風にオレ達を作ったんだ」

    山姥切国広は自分でも御せない諸々の感情を持て余しているのを自覚しているのだろう調子で自嘲気味に鼻で笑ってイブキに恨み言を言った

    「作る?とんでもない。心なんて作れる訳ないじゃないか。自由で、そして我儘で」

    過去の自分を笑い飛ばすように山姥切国広の肩を抱き寄せて言った

    「私という要素以外にもエネルギーや技術のスケジュールも滞ってはいたんだ。だがここ数年でかなりの進展を見せた。予想外なほどにね。皆も、行かせてやりたがっているんだよ。各務さんを」




    長義が部屋に入ると4振りが各務の座るベッドに身を乗り出してあの図面を眺め、ああでもないこうでもないと楽し気に盛り上がっていた

    「あー長義。ねえねえオレ一応医療の”教育”は受けたけどさあ、所詮本職にはかなわないじゃん?お医者さん必要な時どうすんのさ」
    「ちゃんと食料は安定して調達出来るんだろうね?」
    「そういや”こちら側”とはちゃんと行き来できるんじゃろうな?」
    「計画に君の名前が無いんだが、来ないのかい?」

    4振りは長義の姿を見るや否や、畳みかけるように質問の嵐をやや興奮気味に投げかけてきた

    「あーそんな一度に捲し立てないでくれ・・・医術に強い男士の顕現も予定に入っている。生活に必要な物資は当然安定させる。当たり前だ。異次元空間との往来も当然安全に動作する事が確認されたから計画が実行されるんだ。・・・そして、俺は政府側から計画に参加する。定期的にデータを観測する為に「監査官」としてそちらへ渡る事になるだろう」

    「ふーん、そっか。”監査官”ねえ・・・ん?」

    加州がべったりと寄り添っていた各務の顔を覗き込んだ

    「・・・ねえ、ねえなんで主そんなニヤニヤしてんのさ?」

    こうして長義に続き”はじまりの5振り”を顕現させてからというもの、すっかり賑やかになった日々に各務の表情はとても穏やかなになっていた。だが、皆もこんなににんまりと笑う彼を見たことは無かった

    「どうしたんだい。・・・だが、気分が良いならそれでいい」

    怪訝に思いながらも、釣られた様に長義もまた、彼にしては珍しく柔らかな笑みを浮かべた






    長義が監査官として初めて”本丸”に訪れた時、季節は初夏だった
    通された客間の庭に面した戸は開け放たれていて、爽やかな風が庭の木々の葉をそよがせ部屋に吹き込んでくる

    「主!ちょ、部屋の前まではオレが持ってくからさ!、蜂須賀そっち支えてて!」
    「わ、解った、陸奥守襖を開けてくれないか」
    「そんな過保護にせんでも大丈夫じゃろ。最近主は元気持て余してるから我儘じゃのう」

    大騒ぎしながら3振りを従えてやって来た各務は、あの小さな箱の様な部屋に居た頃よりずいぶんと顔色もよく体つきもしっかりしていた

    「・・・皆元気そうで何よりだ」

    やや呆れたように言った長義は、一応は下座に座っている
    その隣に蜂須賀に支えられながら各務が正座して座り、加州から茶托を受け取った

    「・・・粗茶ですが」
    「ありがとう」

    やはり、どこか含み笑いの様な楽し気な各務の表情を訝しげに思いながら進められた茶を飲んだ
    まるでそよ風の様によく香る美味しいお茶だった




















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