とろり、甘い。【龍遙】毎年……と言っても今年で三度目。バレンタインには遙が手作りのチョコを贈ってくれる。
初めてのバレンタインに告白されて付き合うことになったんだっけと龍司が思い返していると、今年のチョコを作り終えた遙がリビングにやってくる。
「……? 何ニヤニヤしてるんだ?」
「バレンタインだなぁって思っただけだ。今年は何作ったんだ?」
龍司の隣に座り、こてんと肩に頭を預けてくる。
そんな遙からふわりとチョコとお酒を使ったのかほのかにアルコールの香りがする。
「それは食後のお楽しみ」
どこか悪戯っぽく笑う遙は何か企んでいるように見えるがそれも含めて「わかった」とだけ龍司は返した。
***
「はー、ご馳走さん。美味かったー」
昨日、合宿所での個人レッスンを終えて帰ってきて久しぶりの遙の手料理は「バレンタインだし、たまにはいいだろ?」と、とても豪華でどの品も美味しく、中でも鰻のちらし寿司は絶品でおかわりをしたいくらいだった。
「で、チョコはいつ貰えるんだ?」
「片付けが終わって、コーヒー淹れたら」
「じゃあコーヒーは俺が準備しとく」
「ああ、頼む」
少しして、片付けを終えた遙が冷蔵庫からチョコを取り出し皿に盛り付ける。その様子をみて龍司はコーヒーメーカーで落としておいたコーヒーを二人分のマグカップにそそいでリビングのセンターテーブルに運んでおく。
「ハッピーバレンタイン」
コト、とセンターテーブルに皿を置いてソファに座る。
「ありがとう。今年は……?」
「ボンボンショコラにしてみた。ハチミツと、オレンジリキュール」
「相変わらず器用だな」
一粒手に取り、店に並んでてもおかしくないなと思いながら眺める。
「別にレシピ通りに作っただけだ」
その『レシピ通り』が簡単にできる人間ばかりではないのだがな、と思いながら「いただきます」とひと口大のチョコを頬張る。
「ん、美味い」
口の中でチョコを割れば、中からトロリとハチミツが零れ甘味が広がる。まわりのビターチョコの苦味とハチミツの甘さがマッチしてちょうど良いバランスだ。
続けて先ほど食べたものよりも、少し色の薄い粒を取り口の中に入れる。オレンジの爽やかな香りとアルコールが鼻を抜けていく。思っていたよりアルコールが強く、食べ過ぎたら酔ってしまいそうだと思った。
「ねぇ、龍司さん」
コーヒーを飲みながら龍司が食べるのを見ていた遙が問いかける。
「チョコって、昔は媚薬として使われていたらしい」
近年では健康にいいとも言われているチョコだが、興奮作用があるとも書かれていたのを目にしたことがあるので『まぁ、ウソではないな』などと思いながら遙の話を聞いていると、チョコを一粒持った遙が「あーん」と龍司の口元へチョコを運ぶ。
大人しく口を開ければ、口に入る手前で遙がチョコをくわえ、口移しで食べさせられた。
すぐに離されるかと思えば、口づけたままチョコと一緒に舌を絡め合わせる。そんなことをしてるうちにチョコは溶け出し、中のハチミツがあふれでてきて口の端からこぼれそうになるも、すんでのところで唇が離れていく。
ゴクリ。
思わず喉が鳴る。チョコを飲み込んだのもあるがその音は異様に響いた気がした。
唇が離れたあと遙が自分の唇についたチョコをペロリと舐める雰囲気があまりにも妖艶だったせいだ。
「ドキドキしたか?」
悪戯が成功したと言わんばかりに微笑む遙に龍司はたじたじになる。
「……した。から、もう一個食わせろ」
龍司の反応に気をよくした遙は嬉々としてもう一つチョコを手に取り再び「あーん」と差し出してくる。
「ッん……」
唇が重ねられ、今度はされるがままではなく、龍司からも舌を絡めて遙の舌ごとチョコを味わう。オレンジリキュールに一瞬むせそうになったが、なんとか堪えた。
ちゅぅ、と吸いあげてから唇を離せばとろんと蕩けて頬を赤らめた遙と目が合う。
先ほどまで余裕たっぷりで色気振り撒いていた奴と同一人物とは思えないほど愛くるしい反応に庇護欲が掻き立てられる。
このギャップがまた愛おしいーー
親指でそっと目尻にたまった涙を拭って、頬を撫でればその手に甘えるように擦り寄ってくる。かまって欲しい猫みたいだなと思いながら撫で続けてると、満足したのか細められていた目がゆっくりと開き熱っぽい視線を向けられる。
「龍司さん、さっきの……チョコみたいに俺のこともトロトロにして?」
トドメ。と言わんばかりの甘い言葉に龍司のハートが射抜かれる。
これが返事だ。と、無言でソファに押し倒し、ニットのセーターに手を滑りこませ腰のラインを撫でながら唇を重ねてく。
「ふ、んぅ……」
ちゅ、ちゅとリップ音をたてながら角度を変えて啄んでいると、遙の腕が龍司の首に回され『もっと』とせがむように引き寄せられる。
大きくかぶりつく様に唇を重ねれば、遙のほうから舌を差し入れてくる。まだ口の中に残るチョコを味わうようにゆっくりと滑らせている所を龍司の分厚い舌が捕まえる。
絡ませ、甘噛みし、時折吸い上げて。
唾液が口の端から零れるのも気にせずに夢中になって口付ける。
流石に苦しくなってきたと遙が思ったタイミングで唇は離され、酸素を取り込んでぼんやりしているとカチャカチャと龍司がベルトを外そうとしている音が耳に届く。
「ここ、じゃなくてベッドがいい……」
「それもそうだ」
幸い、明日明後日とオフにしてあるし、足腰立たなくなるまで抱いても問題ないな。などと思いながら遙の上から退きすっかり冷めてしまったコーヒーを飲み干す。
片手で二人分のマグカップと、チョコの乗った皿を持ち、空いている手で遙の手を引く。途中、キッチンのシンクにマグカップは置いてチョコは冷蔵庫にしまう。
冷蔵庫の戸を閉める前に皿からチョコをふた粒取り、ひとつは龍司が自分で口の中に放り込み、もうひとつは遙に「あーん」と言いながら差し出す。
「あー、ん」
相変わらずちっせえ口。と思いながら口の中に入れる。
「さ、お楽しみはこれからだろ?」
こくり、と小さく頷くのをみてから寝室に向かう。
***
ドロドロ、ベタベタになっていた身体を洗い、サッパリしたところで湯舟に浸かる。
「そういえば、『チョコは盛ってない』ってどういう意味だ?」
ふと、気になっていたことを口にする。
チョコは媚薬だのなんだのと話をして、食べさせあって、興奮したままたっぷりと愛し合ったわけだが何か引っかかっていた。合宿中できなくて溜まっていたのも興奮材料のひとつになっていたことは間違いないのだがまだ何かある気がしてならない。
「……夕飯」
「夕飯?」
「精のつくもの、滋養強壮……他色々」
「う、なぎかぁ……」
ああ、食べた。ガッツリ食べた。
一回の食事でそんなにすぐに効果がでるものではないと思うがチョコだけでなく色々考えていた遙に龍司はただただ「かなわねぇなぁ」と思うのだった。
♡Happy Valentine's Day♡