知らず呼べずとも朝早くからの来訪者は、透明のフィルムと柔らかな薄紙でラッピングされた一輪の花を手に現れた。
眠気のふんだんに残る頭で寝癖のままのボサボサの頭を掻きドアを開けると、根本をリボンで結ばれたそれを押し付けられ呆気に取られる。
止める間もなく家に上がり込んだオクタンが、キッチンのダイニングテーブルの椅子に座っていた。
「どうしたんだ?こんな朝早くから」
押し付けられたのは薄い花びらが幾重にも重なる美しい花だ。ふんわりとした花弁が可憐で、淡い色も好き嫌いがなく好まれるだろう。
だが花を愛でる繊細さは持ち合わせていない。どちらかと言えばズボラで、今だってパソコンデスクの上には昨晩の夕食の残骸が散らかっていて、部屋も殺風景だ。勿論花瓶なんてあるはずもない。
1963