変色「雨さんはすごいね」
情事の後、諸々の始末が終わって同じ布団に入った時だった。疲れと眠気でトロンとした目の村雲がそんな事を呟いた。はて、と首を傾げる。五月雨が自信を持っている特技と言えば暗殺、不意打ち、俳句など。閨の流れで褒められるものではない。一体何を指して「すごい」と言っているのだろう。
「いつも俺がしたいの分かって、俺より先に誘ってくれて……」
なるほどと頷く。五月雨と村雲は恋人同士であり、これまで幾度となく体を重ねていた。五月雨にも性欲はもちろんあるが基本的には村雲の欲求の高まりに合わせて熱い夜を過ごしており、毎回五月雨の方から持ちかけていた。
「雲さんの事は何でも分かりますから」
「ふふ、魔法使いみたいだね。雨さんならガラスの靴がなくてもお姫様見つけられそう」
短刀達の最近のお気に入りである童話を元にしたアニメ映画を引用して村雲は上機嫌に微笑んでいる。そんな恋人の髪を撫でると開いていた目も徐々に閉じていった。
「あめさん……あめさん、すごいね……」
その言葉を最後にすぅすぅと安らかな寝息を立て始める。己の腕の中で安心しきって眠る村雲を愛おしく思いながら、何故分かるのかというからくりは言えないなと思った。
実は村雲の欲を測る事はそう難しくはない。村雲は白い肌に桜色の髪目と淡い色素で構成されている。そういう薄い色合いだと興奮が出やすいのだ。それは村雲も分かっているだろう。だが村雲はせいぜい「肌が白いと興奮した時に赤くなって分かりやすい」としか思っていないはずだ。
他に分かりやすい変化が出る箇所がある。服を着ていてもそこはいつだって露出している。美しい宝玉、二つの桜色こそ五月雨が村雲の欲を測る際に見ている場所だった。
薄い色素の目は興奮で瞳孔が開くと色が濃くなる。元々南泉が興奮し過ぎて突っ走らないようにと覚えた知識だったが今ではもっぱら村雲にのみ使用している。
村雲は自身の欲を恥ずかしい事だと認識しているのか自分からは曝け出そうとしない。しかし内に秘めた熱に焼かれていると淡い桜色が紅に近付く。その事実を教えれば村雲は目を逸らすようになるだろう。それはそれで可愛らしくて分かりやすい反応だからいいが、村雲の変色する瞳は五月雨のお気に入りだからずっと見ていたかった。
「……ふふ。貴方の事は何一つ見逃さぬよう見ておりますから、どうなろうと分かりますよ」
柔らかに波を打つ髪に指を通す。自分も寝ようと額にキスをして目を閉じた。