苦界にて君死に給え 教会の前のバス停で、人々が祈るようにスマートフォンの画面を見ていた。
その群衆の横を通った猫背で死んだ目をした黒髪の男は、革製の大きな鞄を手にしていた。細い通りに入ってゆく男のことなど誰も気に留めず、また男も周りの人間のことなど一欠片も見ていなかった。
黙々と男は人が少ない方へと足を進めてゆく。
やがて貧困とドブの臭いが溜まった裏路地の奥へと辿り着いた男は、何かが地面に落ちる音を聞いた。その音は聞き覚えがあり、暫く歩けばやはり大きな肉塊が地面の血溜まりの中に落ちていた。
しかし男は顔色一つ変えずに人生の幕切れをドブの中で迎えた人間を横目に、今回の仕事場へと早足に進み続けた。その肉塊の近くで煙草を吸う、腕の入れ墨を捲り上げたシャツから少し覗かせる男がにこやかに彼へ声をかける。
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