薔薇と無花果のタルトを君に 喝采せよ、神の獅子を。
幼い天使ロナルドが見たのは、眩い翼を与えられた熾天使である兄の姿だった。生まれたての天使が一対の翼しか持たないのに対して、兄の背には虹色の光沢を持つ力強い三対の翼が存在していた。
真紅のローブを羽織り、抜けば紅蓮の極光を宿す長剣を腰に帯びた兄の姿は、息を呑むほどに美しく畏怖に溢れていたのだ。
──、素晴らしい兄だった、誇り高い熾天使だった。優しく、美しく、誇り高い、素晴らしい天使だったのだ。
そんな兄が翼を落して、人間に転生すると知った時、心がどれほど絶望に染まった事か。
あの兄が、天使を辞めるというのだ。
あの兄が、神より与えられし翼を捨てるというのだ。
自ら誇りを削ぎ落として、たかが100年程度しか生きれぬ、輪廻をさ迷いう脆弱な魂に身を落すと。
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