(クリスマス)
「んメリークリスマァス弟くん!元気かァ!?元気なさそうだな!可哀想なツラしてるぜ」
「兄さん…」
陽気な燐音の声に、普段ならば喜んで飛びついてくる弟はゲンナリした顔で答えた。手に持っているのは空のかご。赤いコスチュームはこの時期よく見るもの。
「サンタさんは今日が出勤日だからなァ!お疲れお疲れ」
「疲れたよ…すごく」
「はは、珍しいな、お前がそんなに弱音を吐くなんて」
「兄さんは経験したことがあるかい?子供と女性ファンと混じり合う人の波を」
「いや、ねぇなァ。俺っちたちの対象年齢は高いから」
「とても気を使ったよ。皆が怪我をしないように気配りながら楽しく帰ってもらうのは」
サンタの衣装のまま、一彩は控え室のパイプ椅子に沈んだ。今日の仕事は字面だけ見れば簡単なものだった。先輩アイドルのライブの前座と、ライブ後に下でお菓子を配るだけ。お菓子を配るだけ。一彩はそう聞いていたのだ。
1918