赤と黄。秋の色。風に揺られてひらひらと舞い落ちるそれらを見つめ、リュシアンは良いことを思いついたと口元を緩ませた。
「はい、兄さん! お土産です!」
当たり前のように家に上がり込んだ自称弟(扉を開けないと何時間でも待っている)にルーナは深いため息をついた。意気揚々と彼が持ち込んだのは真っ赤な紅葉と鮮やかな黄色の銀杏の葉だ。一枚や二枚ではなく抱えて持つ量のそれらを、いったい自分にどうしろと言うのかルーナには見当もつかない。
「いらん」
「そんな! 綺麗でしょう!?」
すげなく言うルーナにリュシアンは驚愕の表情を見せる。喜ばれないとは微塵も思っていなかった顔だ。眉を八の字に下げて立ち尽くすリュシアンをソファに座ったままルーナは見上げる。
「どこから拾ってきたのか知らないが……」
「あっ、ちゃんと地面に落ちる前にキャッチしたから汚れてませんよ!」
「なんだその無駄な身体能力」
一変今度は得意げに胸を張るリュシアンにルーナは「騒がしい男だ」と呆れて息を吐く。褒めて褒めてと言わんばかりの顔はまるで投げた枝を拾ってきた犬だ。なんの役にも立たない落ち葉を集めて期待に満ちた目で差し出してきたときも、リュシアンは主人に撫でられたい犬がそうするように目を輝かせていた。
「とにかく、もううちの庭でいいから捨てろ。中に持ち込むな」
「そんなぁ……綺麗だから兄さんに見せたかったのに……」
しょんぼりと垂れて見える犬の耳は幻覚だろう。とぼとぼと玄関に向かうリュシアンの腕から銀杏の葉が一枚ひらりと落ちる。リュシアンはそれに気付かぬまま外へと出ていった。
「……」
ルーナはすっと落ちた葉を拾い上げると、指でくるりと一回転させる。アヒルの足のように広がる葉には虫食いひとつなく、手の中のそれは確かに美しい秋の色をしている。リュシアンが「綺麗だから見せたい」と言ったのも頷けた。だがしかし。
「やり方が子供か」
当人曰く子供の頃から”兄”という存在を求めていたらしいリュシアンは、ときに幼い子供が家族にするような言動をとるのだ。立派な成人男性である彼がそうするアンバランスさがリュシアンをより奇妙な男に見せた。ルーナはこの男との付き合い方を決めかねていた。避けることは簡単だ。しかしリュシアンはルーナを──”兄の偶像”を求めて一体何をしでかすか、想像もつかない。
「……はぁ」
ひとまず、すぐ戻ってくるであろう男をどうやったら大人しく家に帰すことが出来るだろうか。ルーナはこの日何回目かも分からぬ嘆息をもらした。