喫茶店フォレスタ 1-1『京子と家族』 体育のバスケットボールの時間。残り10秒をタイマーが示す。
「京子、頼んだよ」
「オッケー! っ、ここかっ」
パスを受け取った京子は、既にガードの堅い前方を見て、スリーポイントシュートを放つ。
綺麗な放物線を描いたボールは、静かにネットを揺らした。
「うっそ、完璧すぎるだろ」
「さっすが京子!」
男子と女子がそれにざわついていたところで、インターバルのブザーが鳴る。
「……っほんとお前、見た目も男子っぽいのに、勿体ねえわ」
休憩しにコート外へ戻ったところ、苦笑いで言うクラスメイトの男子に京子は、汗を拭いていたタオルを放り、急にその頬をつねった。
「ってててて!! な、何すんだ!」
そう叫ぶ男子をにらみつけた京子は、こう言い放った。
「男子になるつもりもねぇし、良いか悪いかを決めるのはオレ自身だっつーの!」
体育館が静まりかえるが、男子が呆けてしまったので気まずい空気になった。
「お前、何で頬をつねったんだよ」
「は? グーパンじゃ加減できねーだろ」
水筒をがぶ飲みした後、周囲の空気に気づいた京子は「わり、気にすんな」とだけ告げた。