Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    まろんじ

    主に作業進捗を上げるところ 今は典鬼が多い

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🐓 🐦 🐧 🐣
    POIPOI 566

    まろんじ

    ☆quiet follow

    星の声6

    ##宇奈七

    しばらくそうしてから、奴は尋ねた。
    「嬢ちゃんは、普通の女の子みたいに暮らしたいと思ったことはあるかい」
     俺は首を横に振ろうとして、少し考えた。
    「……普通の男になったお前が隣にいるなら、それも悪くないかもしれない」
     そう伝えると、「そうかい」と奴は安堵したように笑った。だが、俺は突然不安になった。
    「辞める気なのか? 今の仕事を」
     奴は茶色の瞳を難しげに細め、敏いな、と息をついた。
    「内々の話だが、俺たちが……四騎士が活動できる時間はもう、そんなに長くない。解散してからの身の振り方は、自分で考えろと言われた」
     痣のついた指が、俺の掌の上を惑うように滑っていた。
    「国外に逃げるなら、身分は作ってやるとさ。普通の人間としての身分を。正直、俺は今更殺し以外の仕事ができるなんて思えないが……嬢ちゃんが、……そう言うなら……」
     俺は、ぐいと奴の手を引っ張った。いてえ、と奴が小さく呻くのも構わず、そのまま強く両手で握りしめた。
    「ルーマニア。ルーマニアに行きたい」
     俺はその手に語りかけるように言った。本気でルーマニアに行きたがっていたわけではない。たまたま、そのとき思いついた国を挙げただけだ。
     奴の目が帽子の下で笑むのが見えた。
    「ルーマニアかい。いいんじゃないか。あの国、何か美味いものはあったかな」
     お前、普段食べ物を気にする質じゃないだろう。いや、食うものは大事さ。俺一人ならともかく、嬢ちゃんと行って住むんだからな。一人でも、食べ物くらい気を遣うべきだ。今だって棒切れのようなのに。
     以来、星空の見える頃に、他愛のない夢物語を二人で囁き合った。いつも、手を握り合っていた。唯一無二の安らぎの時間だった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🌟🌟🌠🌠🌠🌠🌛🌛🌛
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works