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    先生と生徒の猗窩煉
    ■現代パロディ

    #猗窩煉

    理不尽な校則、退屈な授業、目まぐるしく変わる流行。草臥れて色褪せた大人の中で、唯一煌めいて見えた先生がいる。 

     理科室が好きだ。他教室と違って黒い天板の机も格好いい、背凭れのない真四角の椅子も自然と姿勢が正されていい感じだ。それから、教室内に流し台があるのもいい、気になったら手が洗えるし、お手洗いよりも水圧が高い気がして洗い上がりもサッパリ。
     うそだ。本当は、理科準備室の隣だから。隣の部屋に行くと、何時も先生がいる。真っ新な白衣が眩しい人だ。

     理科室を訪ねて補習を受けるようになってから、何度目かの放課後。受験を控えた二月の在りし日。
    「先生の事が好きです。」
     廊下まで練習場所を広げている吹奏楽部の演奏が漏れ聞こえてる中、衝動などではなく、しっかりと自分の意志でそう告げた。
     鮮やかな赤色のインクが入った0.7のゲルインクペンを右手に握ったまま、時が止まったように硬直する先生の顔を見ながら、この人を好きになった切っ掛けを思い返していた。小さな風圧くらいなら感じられるんじゃないかと思う、長い睫毛が色素の薄い瞳を囲んでいる。一回、二回、素早く瞬きが繰り返されている。

     初めて見た時、華やかな顔立ちだと思った。その時も真っ新の白衣を着ていて、その白さ以上に眩しく見えたのだ。それが、切っ掛けかもしれない。言葉にしてしまうと陳腐な気がして、一度も口にはしていないが、一目惚れだった。だから、受験対策という大義名分をひっさげ、点数が伸び悩んでいる物理と生物の補習を受ける為に先生を訊ねた時にはもう、立派に下心があったような気がする。

    「あ、りがとう。慕ってもらえたって事は、俺の教え方も悪くないってことだな。」
    「お慕いしています、と言われる方が好みですか?」
    「お前な、冗談は…」
    「名前を呼んで欲しい。俺の好きは、そういう好きです。」

     先生の声は耳心地よく、甘やかでいてどこまでも優しい声音だ。ずっと聞いていたいけれど、育てた恋慕を冗談だと一蹴されることだけは避けたくて遮ってしまう。どうか、このまま黙らないでほしい。声を聴かせてほしい、叶うなら名前を呼んでほしい。先生に名字で呼ばれる度に、何だか苦しくて堪らない。その甘い声が、俺の名前を呼ばないなんて堪えられない。胸焼けのように体の中が苦しくなって、腹の中が燃えるように熱くなる。こんな気持ちになるのも初めてだった。


    「素山先生、卒業式に返事を聞かせてください。」
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