猗窩煉ワンドロ第40回「タトゥー」「おでこ」「喜」 獅子の鬣を思わせる髪を掻き上げる男の所作を見る。安ホテルの中でも、目の前の男だけはいつも悠然とその美しさを纏っていた。
「顔には」
「はい?」
「君、顔には落書きしないのか」
「そこまでイロモノじゃない」
「似合うぞ、きっと」
「生きずらいだろ、流石に」
この美丈夫は本当に突拍子もないことばかりだ。
開口一番に初対面の自分に対しての嫌悪を吐いたと思えば、その日の晩には意気投合し、体の相性も確かめた。
一戦交えたばかりの今も、乾ききった喉すらそのまま、肌に浮かんだ汗も、汚れたままの体も気に留めないといった様子で片肘をつき、息が整うのを待つ俺を見下ろしながら無遠慮に顔中を撫でまわしている。
前髪の生え際を擽るように撫でられ、うっすらと汗ばんだ肌を知られることに何とも言えない羞恥を覚えた。
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