苺を食べるぎゅ宇 二人で過ごす時間は、ソファを本拠地としていた。
広めに設計された座面。
ベッド代わりに体を預けても窮屈さを感じないサイズに出会うのは、なかなか難しい。
自分は気に入りのソファに横臥し、彼は毛足の長いラグの上に根を張ったように腰を下ろしている。
目線の先の壁面には、無音を殺すためだけに興味もない映画を投影し、怠惰に過ごす。
部屋の真ん中に陣取る、四人掛けの革張りソファ。
黒い合皮が滑るように光っているさまは下手したら悪趣味にも見えかねないが、広めに誂えられたアームの木目が全体の雰囲気を重たくさせない憎いデザインだ。
この四人掛けのソファは、家内がデザイン家具専門店で見初めて「契約するまで帰らない!」と店内中に響き渡る声で喚いたのを切っ掛けに新居に招いた代物だ。飽き性で、住処を転々と帰る事で気分転換を図る性格上、処分の手間を考え大物家具は少ないに越したことはないと、前回と前々回の引っ越しの際に話し合った矢先だった。
人をダメにするソファも、ヨギボーも、バランスボールも、買ってきた当初気に入って使っていたが、この部屋に越すときに全て手放した。このソファの貰い手を探すのは、きっと苦労するだろう。身内に所帯持ちはおらず、四人掛けソファをどんがり置ける広さの部屋に住む知人はそういない。
「なあ、このソファいる?」
「要らねえ。」
「妹とか気に入ると思うけど。」
「お前に梅の何が分かンだ…、テキトーこくなよなあ。」
四人掛けのソファを独り占めして、恵まれた躯体を伸ばす。
ラグの上に胡坐を組んで座る男の、緩やかなウェーブがかった癖毛が揺れる。
何度も往復する横方向の動きに、つれないやつ、と言わなくてもいいような嫌味で返す。
横臥したまま、丸い平皿に乗せた苺を摘まみ口へ運ぶ。緩やかな丸みを描く先端を齧ると果汁溢れる甘さが口に広がる。果肉とのコントラスト差が強いヘタの緑を片手で毟り取って皿の上に放る。
一番甘い先っぽを食べ終えると、ヘタがあった跡地である歪んだ窪みへ向かって白っぽくグラデーションになっている残りを食べる気にはなれず、流しているだけの退屈な映画を見続ける男の口元に運ぶ。
一番甘くて美味しい先端を失った苺を、文句も言わずに食っている。痩せた頬が暫く動いて、それから細い喉に浮き出た喉仏が深く沈んで再び尖る。
「セックスする?」
「これ見てる。」
「つれないやつ。」
歪な形をした苺の、色の深い先端に歯型を付ける。頭へ向かって白んでいく果肉を、素っ気ない口元に運ぶと果肉と一緒に指先まで口の中へ迎えられる。