香染色の髪の少女 その日イエオミはある少女を見た。
香染色の髪に見覚えのある白い綱紐の髪飾り。春を思わせる桜色の着物に身を包んだまだ幼い少女は、小さな体を更に小さく丸めて蹲っていた。
少女は今にも泣き出しそうなほど目に涙を溜めながら、まだどうにか堪えているのだろう。あどけない面差しとは不釣り合いな泣きぼくろはまだ濡れてはいなかった。
イエオミがこのカムラの里に流れ着いたのは四十路前の頃だ。それまで自分を召し抱えてくれていた所は、家そのものが潰れて無くなった。理由はモンスターでもなんでもなく人間。一族内の派閥争いの末、領主の怒りを買ってお取り潰しとなってしまったのだ。
元々後ろ盾も何も無い傭兵であった彼を気に入り、兵として拾ってくれた先代主の恩義に応えるべく、イエオミはただひたすらに尽力して来た。しかしその結果は呆気ないものだった。
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