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    もものかんづめ

    @kmjy25

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    もものかんづめ

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    鍵の壊れてしまった資料室と楓恒の話

    ##楓恒

    幕間の楓恒⑪公共の場というものは総じて色々な者が使う場所である。丹恒が寝所代わりにしている資料室も公共の場であることには変わりはない。一つだけ一般的な場と違いがあるとすれば、いつだったかこの部屋に鍵がつくようになったことだろう。
    これは丹楓が、二人で居るのだから鍵の一つはあった方が良いとパムに掛け合った結果である。丹恒としても、私的なことをしている時は鍵があっても良いとは思っていたがそれを言えば部屋を使えと反論されるだろうこともわかっていてパムには言えなかった。
    現状、丹恒の兄のようなものと認識され部屋のない丹楓がパムに言ったからこそ資料室と言う場に鍵がつくようになったのだ。
    鍵について思い返しながら、丹恒は見るも無残な姿になった資料室の鍵へ手を伸ばす。丹楓と部屋が壊れる程の喧嘩をしたわけでも、星がバットを振り回して壊れたわけでも、老朽化のせいでもない。
    鍵がかかっていることを忘れ、無理やり開けようとした者が一人いるだけだ。丹恒や丹楓が想像していたよりも力のあった客人は、何度も何度も頭を下げるとお詫びの品だと信用ポイントを置いて列車から降りて行ってしまった。
    「…丹楓、この鍵は明日修理に来るそうだ」
    「そのようだな、一日ばかり問題は無かろう」
     壊れてしまった鍵を机の上に置いた丹楓は鍵が壊れる前まで読んでいた書物に手を伸ばす。今日は丹恒も丹楓も昼間は資料室で各々がそれぞれ資料を読む日だと決めていた。誰が入ってきても問題は無かったのだが、今日に限って明朝で開ける筈の鍵を開け忘れたのは昨晩が激しかった為起きるのがいつもより遅れてしまったからだ。
    「丹楓、鍵が直るまで昨晩のようなことは控えよう」
     書物に向かっていた視線が丹恒を射貫く。不愉快を瞳に宿した丹楓は、息を吐くと書物をぱたんと閉じる。
     これはどうしようもないことだ。丹恒も突然丹楓から、今日から性交を控えよう等と言われたら不愉快にはならずとも不思議には思うだろう。
     だが、これには理由がある。先ほど丹楓が机の上に置いた鍵のことだ。鍵がかからない部屋で丹楓と睦あい、誰かが入ってきたらと思うとそういうことはできないと思ったのだ。
    「其方はそれで良いのか」
    「俺は別に構わない」
    「……そうか、それならば余も構わぬ。其方の好きにせよ」
     先ほどの不愉快そうな瞳は丹楓が瞬きをしている間に霧散していた。丹楓も納得してくれたのだと、丹恒は自分の読みかけの資料に手を伸ばす。
     違和感を覚えたのは、それから数刻後。違和感が気のせいではないと自覚したのは夜の話だった。
     昼間からいやに丹楓との距離が遠い。普段であれば、何か疑問に思っている点を尋ねれば隣に座り事細かに説明をしてくれるのだが今日は数歩開けた位置で立ち止まり教えてくる。
     食事の際も、隣に座り丹恒の好きなものがあると差し出してくる丹楓が今日はそれもなく。
     今に至っては、これから眠ると言うのに部屋から出ていこうとしている。丹楓が体を持つようになってからそんなことをしたことは一度も無かったというのに。
    「丹楓、何処へ行くんだ」
    「今晩は其方の傍には居れぬ」
    「…何か用事でもあるのか? それならば俺も、」
    「丹恒」
     部屋を出ようとしていた筈の丹楓が踵を返し丹恒の方へ近寄ってくる。寝所を整えていた丹恒は近づいてくる丹楓が何をしたいのかよくわからずただじっと見ていたが、丹楓に腕を取られ布団の中へ引きずり込まれた。
     小さな一人用の布団は普段から二人で眠るには些か小さい。だというのに、丹楓は丹恒をこの小さな密室に引っ張り込んできた。
     丹楓に押し倒される形で布団の中へ入った丹恒は未だ丹楓が何を言いたいのかよくわかっていない。ぱちり、ぱちりと瞬きを繰り返す。
    「たん、ふ……んむっ…」
     ちゅぅ、と小さく唇を吸わたがそれだけ。丹楓の唇はすぐに離れていった。
    「丹恒よ、余と寝所を共にするということはこういうことをされても文句は言えぬぞ」
    「た、んふう」
    「余としないと言ったのは其方であろう」
     丹楓の考えが頭の中でぐるぐると回っていく。とどのつまり丹楓は、丹恒に手を出してしまうので夜は別の部屋で寝ようとしていただけなのだ。それも、丹恒が今日はできないと言ったが故に。
     こくん、と丹恒の喉が鳴る。今まさに自分を押し倒している丹楓の髪が頬に当たっているが、それよりも。暗い布団の中、丹楓の髪がこちらに流れてきていることもあり視界が丹楓しか見えない状態であったから。
     こんなに傍に居ると言うのに、どこかへ行くと丹楓は言う。丹恒の望みを叶えようと。
     本当に丹恒の望みは丹楓と離れて眠ることなのか。
     目の前にある丹楓の頬に丹恒は手を伸ばす。丹楓は逃げもしなければ避けもしない。
    「…口づけ以上はしないでくれ」
    「ほう…口づけはいいのか?」
     丹楓の言葉に丹恒からゆっくりと唇を近づけた。先ほど丹楓がしたものと同じ触れるだけの口づけに、布団の小さな密室でちゅ、と可愛らしい音が鳴る。
    「たんふう」
    「其方も足りないようだな」
     丹楓が深く口づけができるように薄く唇を開く。重なり合った唇は徐々に舌を絡めるものになって小さな小さな密室の中でお互いの吐息とぴちゃっと水音だけが響いていた。

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