二度目の葬送(月島 ゴカム15巻ネタ)たなごころから零れたものは、一秒の後には水面に触れた。そこに夜目にも白い波が被さる。揉まれて揺れる髪。海風に揺れる彼女の髪。はじめちゃん、と呼ぶ声。もう見えない自分の心。何もかもが混ざり合い、瞬きひとつの間もおかずに見えなくなる。
月島基はその一部始終を静かに見届けた。
風の音。波の音。静けさに満ち満ちた夜。足は動かず、視線も動かない。心も凍りついたようだ。驚くほど何も感じない。
一度目は、と思い出す。親父を殴り殺したあの日だ。彼女が死んだと聞かされた時、月島は喪失の悲しみではなく理不尽への怒りに全てを委ねた。父親を殺せば自分がどうなるかなんてわかっていた。わかっていても堪えられなかった。
月島はいつも怒りを腹のうちに抱えていた。ままならない人生、他人から向けられる悪意。故郷における幸いがあったとしたら、それは彼女だけだった。
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