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    おいなりさん

    カスミさん……☺️

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    おいなりさん

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    真スミ

    そういえば、と口を開いたカスミに、真珠はクルリと振り向いた。
    鬱蒼と茂った前髪の下ではどんな思いを募らせているのか、そもそもその奥の灰緑が見えた所でその謎多き男の感情が読み取れるのかも分からないけれど、カスミの口元は確かに半月を描いていた。
    確かそういう形の月を、上弦の月、といっただろうか。
    煌びやかなネオンが眩しいビルの隙間にぽっかりと浮いた月を見上げて、そんな事を言っていたのはカスミだったような気がする。
    あれはまだ夏の始まった頃、梅雨の合間のほんの一時の晴れ間だった。
    そこまで考えて、真珠の思考はピタリと止まってしまった。
    それは鼻先に触れた前髪がくすぐったかったからもしれないし、髪の毛数本分の隙間から覗いた柔らかい灰緑の眼差しのせいかもしれないし、やけに柔らかく温かいものが唇に触れていたせいかも知れない。
    「寒いッスね、そろそろ店戻りませんか」
    けれど、その全てが自分から離れたと気付いたのはカスミがそう言ったからだ。
    「……うん」
    まるで夢から覚めたばかりのようにそう答える真珠は、裏口のドアを開けようと背を向けたカスミに隠れ、指先でそっと唇に触れながら目を閉じたのだった。

    end.
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