Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    おいなりさん

    カスミさん……☺️

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 78

    おいなりさん

    ☆quiet follow

    真スミ。
    キスするだけの話。

    ##真スミ

    キス、未遂、既遂。
    (真→←スミ)


    その日は朝からどんよりとした天気で、今にも雨が降りそうだった。
    本当なら遊園地だとか動物園だとか、何処でもいいんだけど、屋外の楽しい所でカスミと遊ぶ予定だったんだ。
    でもTVでは降水確率が80%なんて言ってるから、出掛ける前にカスミにどうする?って聞いてみたら、それなら屋内の大型ショッピングモールに行って買い物でもしますか、って提案された。
    それも面白そうだなと思って、おれは二つ返事でその案に乗った。
    雨が降ったら大変だからと迎えに来てくれたカスミの車に乗り、一番近くのショッピングモールに向かった。
    服や小物を見たり、気になる映画を見たり、ご飯を食べたり。
    気付けばあっという間に時間が経っていて、時計を見ると19時を過ぎた所だった。

    「自分、明日早いんで、そろそろ」

    そう言われて、まだ遊び足りない、カスミと一緒に居たいって気持ちはあったけど、無理をさせたくはないから、おれはそうだね、と頷いた。

    外に出ると予報通りに雨が降っていた。
    それもけっこう激しめの雨。
    車で来てよかったね、なんて言いながら、でも本当は、雨がすごいからもうちょっと待ってみようよ、とか、雨で服が濡れちゃったから家で乾かしていきなよ、とか、そういうので少しでも一緒に居られる時間が長くなればいいのにって思った。

    家に着いて、良かったらコーヒー飲んで行かない?って聞くと、カスミは少し迷ってたけど、おれが手を引くと着いてきてくれた。
    部屋に通して、座布団に座って貰ってから、おれは小さなキッチンでマグカップを二つ用意する。
    カスミが家に来るのは初めてだから何だかドキドキして、自分の家なのに他人との家にいるみたいに緊張した。

    コーヒーを飲みながらぽつぽつと会話をする。
    カスミのふふ、と笑う声が部屋の空気に溶けるたび、ほわっと胸が温かくなるのを感じる。
    カスミがコーヒーを飲み切る前にいろんな話をしたくて、持ってる漫画や借りてきたDVDの話もした。
    ふと、手を突いた所に落ちてた漫画に目が留まった。
    最近友達に勧められて読んだやつだけど、面白かったからつい一気に出てる単行本を全巻揃えてしまったやつの一巻だった。
    これもカスミに読んで欲しくて、カスミの方へ振り返った。

    「あ、ねぇ、これオモシロいよ、カスーー」

    カスミの名前を呼ぼうとして、視界に大きな影がかかるのを感じた。

    「ーーミ、」

    目の前が真っ暗になって、それがカスミの前髪だと分かったのは、その奥に揺れる灰緑が見えたからだった。
    唇を撫でる息は、自分のなのか、それともカスミのなのか。
    いつのまにか掴まれていた右肩がじわりと熱を帯びる。
    茂みの隙間の灰緑がきゅっと細くなり、辛うじて見えていた眉尻が困った様に下がったのが見え、おれは何かを言いたくて、でも何を言えばいいかわからなくて。
    カスミの名前を、もう一度呼ぼうとした。
    けど、すぐに顔を離してしまったカスミは、おれの声をかき消すようにして小さく

    「すみませんでした……驚かせちゃったッスね」

    と申し訳なさそうに呟くと、すっと立ち上がって玄関に向かった。
    その背中を慌てて追いかけるおれに、カスミは何でもないように

    「珈琲、ご馳走様でした」

    と言って玄関を潜った。
    一度も振り返らないカスミの背中に、帰り気を付けてね、と声を掛けると、カスミはふっと息を漏らしてドアを閉じてしまった。

    そうして、部屋の中にひとりきりになって。
    今までシンと静まり返っていた部屋の中に、自分の心臓の音がドクドクと響き始めた。
    さっきまでは全く何が起こったのか理解できてなくて帰って行くカスミの背中を追うので精一杯だったけど、カスミにキスされそうになったのがわかった途端、腰が砕けてその場にへたり込んでしまった。
    触れそうだった。
    あと少しで、あの薄くて柔らかそうな唇に。
    自分の口を指で押してみると、ふにっとした感触がした。
    カスミのは、マグカップに押し付けられてたカスミの唇は、これよりももっと柔らかそうだったし、すごく甘そうに見えた。

    「ーーおれが、あと少し動いてたら、」

    呟いて、想像して、心臓の音が更に煩くなって。
    カスミの顔が見たくて堪らなくなって。
    おれは力の抜けてしまった足を無理矢理引き摺って部屋を飛び出した。
    階段を駆け降りると、カスミは車に乗ろうとしてた所だった。

    「真珠?どうしーー」
    「カスミ!」

    運転席に押し付けるようにして。
    おれは、カスミの前髪の奥にある灰緑が、大きく見開かれるのを間近で見つめながら、想像よりもずっと甘くて柔らかいその感触を、何度も何度も確かめたんだ。
    カスミが涙目で、もう許してっていうまで、何度も。



    end.
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭💖❤🙏👏👏👏💯💯💘💖❤😭🙏✨ℹ
    Let's send reactions!
    Replies from the creator