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    クロロレ
    飼ってる犬が理由でくっつかねえかなあという現パロです。
    (作曲家×パタンナー)
    二人が飼っている犬はサルーキです。

    犬の話(仮).4 ローレンツはネヴァに似ている。まだ一歳になるかならないか、という愛犬より成人男性であるローレンツの方がもっと前からこの世に存在しているが、クロードが存在を認識した順番の話なのでこれで正しい。
     どこもかしこも細長く、それでいて筋肉質な身体つきやじっと何かを観察している時の首の傾げ方が似ている。それに見ただけでさらさらだ、と分かる真っ直ぐな紫の髪はネヴァの飾り毛のように風になびく。悪意に晒されずに育ったのか、天真爛漫なところも似ている。
    「普通、助走つけて棒投げたりしないよな?」
     きりの良いところまで作業を終えたクロードは大きなビーズクッションに埋まっているネヴァの毛並みに顔を埋めつつ、そう語りかけた。今は傷ひとつない身体だが、そろそろ避妊手術を受けさせねばならない。ノーリードが許可されている場所で遊ばせるには様々な条件がある。あの公園でローレンツに棒を投げてもらうのが大好きなネヴァからその機会を奪いたくない。
     素人目にも美しいフォームだった。あの後こっそり調べたが、やはらやり投げは手足が長いとそれだけで有利らしい。体育教師にスカウトされ、街中ではモデル事務所にスカウトされた結果が今の彼だ。
     彼の名前で画像検索すると短髪で今より幼い雰囲気のローレンツの姿がクロードのスマートフォンに浮かび上がる。カメラマンも分かっているのかさまざまな表情を切り取っていた。何度か撮り直しはしたのだろうが、どの写真も表情が実に自然で美しい。換金できるほどの美は今も彼に宿っている。
     ローレンツのそんな風に表情が豊かなところもネヴァに似ている、とクロードは思う。ネヴァもパブロもどこかの誰かのように貴族然とした優雅な見た目をしている。犬種がなんであれ、犬という生き物は飼い主の表情が豊かならば連動して表情が豊かになっていく。
     体型や豊かな表情を活かし、高校時代は学業や部活の合間に社会勉強として他人が作った服を着てランウェイを歩いていたが次第に作る方に興味が移って今に至るらしい。ボタンも自力で付け直せないクロードだが他人任せにしたくない気持ちはなんとなくわかる。自分もかつては他人が作った曲を弾くだけだった。
     だが演奏ではなく作曲にも興味がわいて、とにかく色んなところに作った曲を送りつけた。ローカルCMの仕事や地元の小劇団が使う劇中歌の提供など、細かい仕事を積み重ね───愛犬と共に暮らす今に至る。



     ローレンツたちはいつもの公園に来ていた。今日は重ね着の好きなクロードが珍しくTシャツしか着ていない。クロードは何がそんなに愉快なのかローレンツの競技経験をしょっちゅう弄る。だがあの腕や肩の筋肉のつき方から言って彼も何かの競技経験があるとしか思えない。
    「洗濯機が壊れてコインランドリーでやり過ごしてたんだが最近忙しくてな」
    「早く買い直したまえ」
     パブロもすっかりクロードに懐いたがローレンツもすっかり遠慮しなくなっている。親しい友人は遠くにいるか業界関係者、というローレンツにとってクロードはパブロ以外で唯一の、この街にいる利害が絡まない親しい友人だ。たわいもない会話が日々の緊張をほぐしてくれる。
    「でもやっぱり実物見てから買いたくないか?」
    「製造中止になっていないのなら同じ製品を買えばいい。なんの不満もなかったのだろう?」
    「それもそ……うわっ!本当に足が速いな!」
     会話中、こんな風に犬たちが突っ込んでくるのも良い。クロードはいつものように持参したピクニックシートの上で靴を脱いで寛いでいた。そこにネヴァが駆け込んでくれば堪え切れないに決まっている。
     愛犬に押し倒され、健康の証である濡れた黒い鼻先を顎や脇の下に突っ込まれたクロードは愉快そうに笑っていた。パブロもネヴァも遠慮せずにかけっこ出来るお互いに夢中だが、それでも飼い主を忘れることはない。パブロは走って行った先で見つけた良い棒をローレンツに見せてくれた。見せてくれたが渡してくれない。投げて欲しい気持ちはあるがお気に入りなので手放したくないのだ。異なる欲求がせめぎ合うところは犬も人間も変わらないような気がする。だからこうして社会を形成できるのかもしれない。
    「パブロ、渡してくれないと投げてあげられないぞ?」
     ローレンツもクロードも不規則な暮らしをしているせいかこの公園で滅多に他の犬連れと出会わない。この状況はパブロにとってもローレンツにとっても気楽なものだった。
     これからもリードなしで自由に遊ばせるならそろそろパブロに精密検査を受けさせねばならない。ブリーダーによるとパブロの父は麻酔にアレルギーがあったため繁殖犬となった。その体質を受け継いでいるならパブロは今後、外では絶対にリードを着用せねばならないし、受け継いでいないなら去勢手術を受けさせねばならない。
    ───あとで獣医に予約を取ること、ローレンツは脳裏にそう刻んだ。
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