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    クロロレ。ェュ前提なのでご注意ください。
    紅花ルート

    有情たちの夜.16「枠の外へ4_5」 タルティーンの野で敵がかつての再現を狙う様にヒューベルトは失笑してしまった。教会はネメシスを破り、王国は帝国軍を破っている。そんな夢に縋るくらい追い詰められた時点で負けなのだ。
    「復興は道半ばですな。王が冷静であればああなっていないでしょう」
     紫の瞳がヒューベルトをじっと見つめている。病的なまでに冷静だったクロードとディミトリを比べているのだろうか。ディミトリはタルティーンに出てくる必要などなかった。進軍するふり、だけに留めておけば王都フェルディアを守れただろう。
    「僕は魔道学院にいたことがある。情勢が悪化して入学早々、帰国せざるを得なかったが」
    「ローレンツには焼け落ちる前のフェルディアの記憶があるのだな。我々と違って」
    「華やかではないが落ち着いた雰囲気の良い街だった。王都を陥落させまいとディミトリくんは賭けに出たのだろう」
     ヒューベルトはローレンツの知らないことを知っている。ディミトリはヒューベルトの主君、エーデルガルトを殺すためだけにタルティーンの野に出陣した。そして十傑は他民族から中央教会とアンヴァルを守る捨て石に過ぎない。千年の時を経て、少しは愛着が芽生えただろうと思っていた。
    「王国軍の者たちは死に物狂いだった」
     人間らしさを保証するものは一体なんなのか。フェルディナントは己に刃を向けたものの内にも美徳を見つける。不運にも刃を向ける羽目になった、というつもりだろうか。
    「紋章石を手にするほどに、必死でしたな」
     タルティーンの野で何があったのか、正確に知るものは少ない。戦場は混乱するものだし、自分がいなかった場所で何が起きたのか把握するのは至難の業だ。だからヒューベルトも魔獣と化した王国兵を見てディミトリがどう感じたのか知らない。
    「露悪的な態度を取るのは私がいるせいか?」
     フェルディナントの目が細められた。彼は決して不正をするような人物ではない。だがローレンツとの友情が世間に知られている以上、忖度が疑われてしまう。



     帝国の者たちは皆ローレンツに敬意を持って接し、人間らしく扱っている。親帝国派として知られるグロスタール家の嫡子で、彼らの予想から逸脱しないからだ。ではクロードはどうだったのだろうか。彼の常軌を逸した行動に人間らしさは見出されたのだろうか。ローレンツはそっと拳を握りしめた。今でも槍の訓練を怠ってはいない。
    「紋章石を手に、と聞こえたが合っているだろうか」
    「そうだ、我々はこの目で王国兵たちが魔獣になるさまを見た」
     帝国軍には緘口令が敷かれている。フェルディナントといえども従わねばならない。ヒューベルトの監視下で、ローレンツがこの場で聞いたことを口外しないと分かっているから命令を破ってくれた。
    「追い詰められた、と感じた時点で彼らは負けていたのです」
     帝国軍はそんな彼らに勝利している。そこまでして彼らが守りたかった王都はよりによって、セイロス騎士団によって焼き払われたという。
    「だが私は戦場で相対した彼らに崇高なものを感じたのだ」
     セイロス教に拠って立った国は、皮肉なことにセイロス教を保護したせいで滅亡した。徹底抗戦の末、国土は荒廃し復興は遅々として進まない。クロードはフォドラから追放され、パルミラ産の小麦がファーガスへ輸出されている。この状況はローレンツにとってひどく据わりが悪い。
    「それは彼らが王や国を見限ることなく殉じたからだろうか?」
     正直に頷くフェルディナントを見て、ローレンツは気がついてしまった。自分はもうクロードやレスター諸侯同盟に殉じることはできない。
    「レスター諸侯同盟は諸侯同士が対等な、王がいない国でした」
     ヒューベルトに過去形を使われてローレンツの心は痛んだ。薄い唇はまだ言葉を紡いでいる。
    「貴殿はフェルディナント殿と仲が良いが、それでもクロードは貴殿のことを真の友と思っていたのでしょう。だから友人が己に殉じることなく息災であってほしい、と願った」
     金色の瞳はローレンツではなく隣に座るフェルディナントを見ていた。最後に残る感情、の解釈が合っているかどうか気になるらしい。
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    MAIKING「説明できない」
    赤クロと青ロレの話です。
    8.背叛・下
     雷霆を振るうカトリーヌの名を聞いた者に多少なりとも英雄の遺産や紋章の知識があったならばそれがとんだ茶番だと判るだろう。だが無謬であるセイロス教会が彼女をカサンドラではなくカトリーヌと呼ぶのならそれに従うしかない。カロン家当主としても令嬢カサンドラに死なれるよりはガルグ=マクで生きていてくれた方が良いのだろう。

     ローレンツは霧深い街道をガスパール城に向けて黙々と進んでいた。前方ではクロードとベレトとカトリーヌが何やら話している。五年前、ローレンツは帝国軍が破竹の快進撃を見せた時に正直言ってファーガス神聖王国がほぼ崩壊したと思った。今の彼らの会話を耳にしてもファーガスが凋落しているという印象が深まっていく。青獅子の学級の学生たちは士官学校に入る前に初陣を済ませている者が多いのはダスカーの悲劇以降小規模な騒乱が後を立たずにいるからだ。

     だからあの時ローレンツはフェルディナントと共にミルディン大橋に立った。ファーガスは近々自壊するだろうしパルミラとの国境を守りながら強大な帝国に抗う力が同盟にはない。ならばせめて領地と領民を守りたいと思ったからだ。霧の立ちこめる行路は人生 2090