おやすみ遠征に出ていた少数部隊が帰還予定時刻を過ぎても戻ってこない。
これ以上は待てないと軍師が手勢を連れて出立したのは数刻前の話。
夜も深まり、それでもどこか忙しなく人々は行き交う。就寝の準備のそれではなく、帰りを待つ者の浮き足だった忙しなさだ。
不粋な憶測が飛び交う。
窓の向こうに目をやると、赤月の地をシトシトと濡らしていた雨足がようやく落ち着いてきていた。閉めきっていた窓を少し開け、冷えた風を肌で感じる。部隊が帰還したと報せが入ったのはその時だった。
無機質で殺風景な部屋の外、にわかにガヤガヤと賑わい始めた廊下を横目に見やり、その喧騒に小さく嘆息した。
肩を貸しあい身を引きずりながら部屋に入っていく者、酒瓶片手にその場に座り込み酒盛りを始める者、各々が各々のやり方で健闘を称え合っている。その中には、泣きながら抱き合う者の姿もあった。或いは笑顔で、或いは咽びながら、様々な感情が交差する広場。
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