【レオ+零】レオ誕①
「朔間!やっと来た!!」
「な、なんじゃ?????」
月永くんのパーティー会場はここかの、と。開いていたドアから中を覗き込んだ零はいきなり泉に腕を引かれて目をくるくるさせた。
今日が誕生日の友人のパーティーがあると聞いたから仕事帰りに寄ってみたのだけれど約束していたわけでもなし、"やっと"というのはどういうことだと首を傾げる。
「ちょっとその辺に立ってて!!あーあとはー」
「なんじゃ……??」
零を引っ張りこんだ張本人は説明することも無く立ち去ってしまう。代わりに教えてくれたのは同じく『その辺に立ってて』と言われたのだろう、真緒だった。
「月永先輩がお誕生日ソングを大絶賛製作中なんですけどそれを演奏するメンバーを集めてるらしいです」
「ほう」
「と言ってもまだどんな曲になるのかもわからないので瀬名先輩がとりあえず何が来ても何とか出来そうな人を手当たり次第スカウトしてるんですけど」
朔間先輩くれば楽になるのにってだいぶ前から呼んでましたよと苦笑しながら、とりあえずなんかドリンク持ってきますね何がいいですかと気を使ってくれる真緒に礼を言う。
それから会場内を見渡して。
「順調かえ」
「まって!いま邪魔しないで!!」
「うむうむ順調そうじゃの」
会場に背を向けて一心不乱に五線譜に書きなぐっているレオの背中を覗き込んだ。
光源を遮らないように少しずれて、レオの意識も邪魔しないように少し離れて、今まさに生れ出てくる音楽を眺める。
「サンバ……?」
「楽しそーだろー!」
話しかけたつもりではなかったのだが返事が返る。
なんとなく楽譜を眺めながら出来上がっている部分のリズムを取りながら小さな声で口ずさむ。と。
「あ、それいいな!そのフレーズもっかいここに入れよ!!」
レオが作ったメロディを零が口ずさみ、そこからインスピレーションを受けたレオが更にその続きを書き上げていく。それまで以上のスピードであっという間に後半が出来上がって。
「できたー!また歳取ったのサンバ!!」
「また歳取ったのサンバ」
「10代最後の歳を盛大に祝うカーニバルな曲だ!!」
面白いタイトルじゃのうと呟いた零が、笑みを浮かべて。
「そうじゃのう、楽しい一年にしようぞ」
「もちろんだー!!」
さあ早速演奏するぞと零の腕を引きながら跳ねるように歩き出すレオの後ろ頭を、零はにこにこと見つめていた。
②
「ハッピーバースデートゥーミー!!お酒飲むぞレイー!!」
ばんっと開いたドアの音にもめげることなく眠り続ける零のベッドに駆け寄って、レオはその肩を揺さぶる。
「レイ起きてくれー!飲めるのレイだけだから!!」
「……」
がくがくと揺さぶられてぼんやりと意識が覚醒してきた零は目の前にある満面の笑みを見つめる。正確な時間はわからないが同室者がいないことから察するに昼近いのだとは思う。昨日も今日も仕事が夜な零にとってはまだまだ早い時間だけれど。
「月永くん……」
「そうだ!」
「ハッピーバースデー……」
「ありがとうレイ!!」
零はただ状況把握するためにさっき聞こえた言葉を復唱しただけだったが、きちんと礼を返すレオの言葉にようやく少し目と頭が覚めて来て。
「誕生日おめでとう月永くん」
とりあえず今度こそ心から、おめでとうの言葉を口にして微笑んだ。
「それでお酒を持ってきたのかえ?」
「うん!店員さんに一番美味しいのって言ったらこれって!!」
体を起こしてベッドに腰かけて、床に座り込んだレオの差し出した袋を受け取る。そして綺麗にラッピングされたそれがまだ未開封なことに苦笑してレオに返した。
「一緒に飲むのは構わんが開けるのは月永くんがやっておくれ」
レオが自分で買ってきたとはいえ、如何にもプレゼント風な物を開けるのは忍びない。わかった!と言ってビリビリ包装紙を破るレオを微笑ましく見ていたのだが。
「シャトーラフィットロートシルト……」
出てきたワインのラベルを見て珍しく絶句した。
「なんかそんな感じの名前だった気がする!」
「しかも当たり年の……」
「当たり年?」
よくわかんないけど縁起がよさそうだな!と笑うレオに呆れ顔を向ける。
「月永くん、初めて飲むのはこれじゃない方がいいと思うんじゃよ」
「なんでだ?」
「ううむ……」
別にいきなり最高ランクの物を飲むのが悪いとは思わない。いいものを知っておいた方が舌は肥えるしその後の味もわかりやすいと言えるかもしれない。けれど、これは零の勘だが、レオはそんなに酒を好まなそうな気がするし、もし今ここで開封してしまえば二人で飲み切らなければならなくなる。そんな風に煽って飲むような酒では、無い。
「月永くんはこれを今ここでどうしても飲みたいかえ?」
「ん-?別にこれじゃなくてもいいけどレイと酒は飲みたい!」
「そうか。月永くんのおうちにワインセラーはあるかえ?」
「?? たぶん無い!!」
「わかった。それでは月永くんの時間をこれから少しもらえるじゃろか?」
「いいぞー!」
わかったと言ってワインボトルを箱と袋に戻した零は立ち上がる。
「それではこれから一度我輩の家のワインセラーにこのワインを置きに行こう」
「レイの家!」
「そのあとは我輩から月永くんへの誕生日プレゼント探しの旅じゃ」
付き合ってくれるかえ?と笑いかければもちろんだ!とお日様のような笑みが返った。