運命と悪戯①■序章
『こんなものを渡すのは、ちょっと気が引けるんですが……』
厄災との決戦を明日に控えた夜、部屋を訪ねてきた晶は、歯切れ悪く切り出した。そしてリボンで結んだあるものをフィガロに差し出してくる。
『賢者様の、髪?』
受け取ったそれは、フィガロがいつも指先で梳いて遊んだ、つややかな深い茶色の髪の房だった。見れば、彼女の左肩に流れる髪の一部分が不自然に短くなっている。
『もしも私がどこかへ行ってしまったとしても、こういうものがあったら探しやすいかなと思って。人探しの魔法には、探し人の体の一部があるといいと以前聞いたんです』
すらすらと、まるで準備していたように言葉が紡がれたあと、鳶色の目がふっと伏せられる。そのわずかな仕草だけで、フィガロには彼女の心境が手に取るように分かった。
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