いつも通り昏見は皋宅に忍び込んだ。
そしていつも以上にむっすりした表情の皋にどうしたのか、と聞いて、返答が返ってきたとき、昏見は泣きそうになってしまった。
「おひゃしらつがいはい」
信じがたい滑舌である。
あの皋所縁が!
奥歯に物が挟まったような言い方って実際にあるとこんなにフニャフニャなんですね録音して逆タイムカプセルに詰め込んでイケイケだったころの所縁くんに聞かせてあげたいですきっと泣いて喜びますよ、と返してあげると、皋は不機嫌そうな顔をしたけれど何も言わなかった。
『おひゃしらつがいはい』
昏見の最新式・皋翻訳機だからこそ意味が分かる。つまり、
「親知らずが痛い」
ということである。
「うーん、親知らずって懐かしいですね。私も昔は毎日屋根の上に投げてましたよ。痛いって事は変な生え方をしているんじゃないですか? はい、あーん」
1616