「お前、だいぶ見れるようになったよな」
「何がスか?」
「体」
「サイテー。その発言、セクハラっすよ」
「見ないでくださいよ」と膨れっツラでシーツに包まったラギーの肩先は、なだらかな曲線を描いている。
はじめてその身体を見た時、なんとも貧相な体だと思った。小柄だとは思っていたが、服を脱ぐとまさかこれほどまでに痩せているとは思わなくて、その薄っぺらな胸に浮き出たあばらを見てあからさまに顔をしかめてしまったほどだ。
そのくせ、手首などの関節にあたる部分は薄い皮膚を突き破りそうなほどに骨が大きく張り出ていて、よりその痩せこけた体を病的に見せていた。
「あ、思い出した。レオナさんオレとはじめてヤる時に“お前、メシ食ってるか?”って言ってきたんスよね」
「そんなこと言ったか?覚えてねぇな」
「言いました〜。お互いあれでちょっとヤる気失せてたじゃないスか」
覚えている。取って喰ってやろうと思ったのに、強く掴んだらへし折れそうな腰を見て仕方なく抱かれる方に回ったんだ。「本当に大丈夫か?コイツ」と心配げに眺めていたが、コトが始まってみると存外器用で奉仕的なところが気に入ったので、腰が揺れるたびに当たる骨の尖りは愛敬だと思うことにした。
「ヤってみりゃ、アレはアレで悪くなかったけどな」
「えぇ、どこがスか。骨、当たって痛かったでしょ」
「お前が必死な顔して、あばらを腹にこすりつけてくるところ」
「う〜わ、なんスかそれ。エロいなぁ、ムカつくけど」
すり寄ってきたラギーの背中に手を回す。やはり当時と比べると、ずいぶん肉付きが良くなったと思う。それでもまだ痩せ型ではあるが、あの時は背中になんてさわれば背骨の一つ一つが点々と皮膚の下に道を作っていた。それをなぞっていくと尻尾の生え際にたどり着いて、ゆっくりと尾先から毛を逆撫でにすると、余裕なさげに丸い瞳を細めてみせるのが可愛げがあって良かったのに。今では余裕ができるどころか、最中に歯を見せて笑ってこちらを煽ってくる生意気さまで持ち出した。
「どうします?この先オレがレオナさんよりデカくなったら」
「とうていムリだろ」
呼吸に合わせて起伏する胸板。その下にある浮いたあばらをぽこぽこと指の腹で撫でた。肉付きが良くなっても、まだうっすらと浮かびあがっている。多分、そういう骨格なんだろう。せめてこれが肉に埋もれるぐらいになってから、大きな口を叩けと含みを持たせた表情を向ける。するとあばらを撫でるオレの手を、ラギーの体の割に大きな手が引き剥がした。ベッドのスプリングが軽く軋む。のしかかられると、流石に重苦しい。
「退けよ。重い」
「力づくで退かせばいいじゃないスか」
「拗ねるなよ、ガキ。小さいのは体だけにしとけ」
「う〜わ、うぜ〜」
ラギーの背中が丸められて、自分の腹に微かにあばらが擦れる。以前に比べると骨っぽい硬さが失せたので、今は痛いとも思わない。むしろぽこぽことしたあばらが胸板や腹に擦れると、くすぐったさすら感じて小さく身じろぎした。二人分の重さを載せたベッドの真ん中が深く落ちくぼんだら、先程からキシキシと小さな音を立てていたベッドのスプリングが一回り大きくたわんだ。