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    ねこさ

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    ねこさ

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    しぶに出したバレンタインイデマレの没った一節。ご供養です。
    アズールがディアソムニア寮を訪ねたくだりで入れようと思ったんだけど、なんか冗長になる上に本筋と関係ないので削ったところ。このアズさんはポイズンクッキングを知らない。

    「ちょっと待っておれよアズール、今、茶を出すからのお」
    「あ、お構いなく」
    「遠慮するな。おぬしのような若者はケーキとクッキーどちらが好きかのう」
    「いえ、本当にお構いなく」

     何だこの会話は。お年寄りの住まいに訪問販売に行ったら何故か歓待されてしまい戸惑うセールスマンか。
     緑の燭台に照らされたディアソムニア寮の談話室でアズールは引きつった愛想笑いを浮かべた。
     礼儀正しくマレウスとの面会希望を告げ、談話室に通されたまではアズールの予定通り。
     ただ、その後マレウスがなかなか現れず、代わりにやってきたリリアにもてなしを受けていることが少々想定外だった。

    「いやあ、わざわざマレウスを訪ねてくれる同僚がいるとは嬉しいぞ。学年は違うが寮長同士じゃ、仲良くしてやっておくれ」
    「ええ、もちろんです」
    「その打てば響く小気味よさ、流石はアズール、度胸も一品じゃ! くふふ。そんなおぬしにとっておきの菓子を出してやろう」

     わしの手作りなんじゃよーとどこからともなく取り出された菓子を見たアズールはぎょっとして目を見開いた。
     え、なにそれ、その物凄い色の食べ物……食べ物? 食べ物なんですよね? タコちゃん陸二年目なのでちょっとわかんない。陸の生き物は皆こんな色のものを食べるのか、それとも妖精族特有のなにかなのか。

    「い……いただきます……?」
    「アーシェングロット、待たせた。それは食べなくてもいい」

     後に、このタイミングで声をかけられたことを心から感謝する羽目になるのをアズールは知らない。

    「マレウスさん」

     振り向けば待ち人が何故か眉根を寄せて立っている。はて。食べなくてもいい、というのはどういう意味だろう。食べてはいけないのか。妖精の礼儀作法は難しい。
     とりあえず身分の高いほうのひとに従っておこうと、アズールは菓子(推定)に伸ばしかけた手を引っ込めた。

    「僕に用事があるのだろう」
    「はい。少々お話したいことが……」
    「ならば僕の部屋に行こう。リリア、ここはもう良い」

     さっさと背を向けた寮服の黒いマントについていこうとすると、リリアがこそっと耳打ちしてきた。

    「残念じゃったのうアズール。しかしガッカリすることはないぞ。先程の菓子は土産に包んでやるから寮に帰って食べるがいい。リーチ兄弟の分も持たせてやろうな」

     ニコニコと囁くリリアに、お気遣いありがとうございますと微笑んでしまったこれが、後々、モストロラウンジ大水槽毒物混入事件と言われる騒ぎの引き金になるわけだが閑話休題。この時は何も知らず、初めてお邪魔する妖精王の私室に胸を(商売的な意味で)ときめかせていた。
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