海を見に行く 砂はともすれば足をとらえる。
おろしたてらしいスニーカーが砂浜にいくつもの跡をつけた。白地の、そこに灰色の染みがついても奏汰が気にすることはない。
風は冷えている。
潮騒は耳鳴りに似ていた。
夕暮れどきになずむ空に鳶が声高く鳴いた。
「ちあきがくつをはけっていいましたから」
そういう声はやわらかく、かぼそいわりに海風にまぎれないでいる。まぎれてしまえばいいのにとそんなことを頭の隅でちらりとおもった。
「千秋さんの言うことならなんでも聞くんだなあ」
ばかなことをとおもいつつどうしてか口にしてしまった、その言葉に奏汰はふふと笑ってみせた。
「ちあきはただしいので」
まったくそのとおりだと納得しながら、じゃあ俺は、と重ねてしまいそうになるのはどうにか自制した。
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