エンカウント 完全に、油断していた。
普段よく行く店よりワンランク高い和食居酒屋。手洗いから出たヤンは人の気配に顔を上げた。
客席から隔てられた仄暗い通路の入り口付近。上背の高い男が立っているのが見えた。
目を凝らさずとも纏うオーラが輝きを放っている。そんな印象だった。
シックなブラウンのスーツに、春めいた淡いピンクのタイ。見栄えのする洗練された装いに目が行く。一見派手にも思える着こなしは均整のとれた身体を華やかに引き立てていた。
どうやら壁にかけられたアートボードを鑑賞しているようだ。腕組みをした立ち姿もひどくさまになっている。
心惹かれるものを感じ、何気なく視線を上へずらす。
「――!」
ヤンは漆黒の瞳をこぼれんばかりに見開いた。
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