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    karanoito

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    karanoito

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    仁×新 140文字SSまとめ

    「好きにならないはずがない」

    異界への手がかりだからとつきまとってたら案外ウマが合って毎日が楽しくなった。教室に入ると真っ先に彼の姿を探す。真面目でいちいち俺の言うことに腹を立て、笑うと控えめに口元が綻ぶ。お前といると周りの空気が澄んで見えた。理想の人間だったんだ。こんなの惚れるしかないだろ。



    「告白しても良いかい?」(仁新)

    自分が好かれてるとは思いもしない君にはどんな態度が有効だろう。回りくどい言い方よりシンプルな方がいいかも。好物で釣るのもアリか?何をしたら一番喜ぶだろうと頭を悩ませ、未だに実行はままならない。「眉間にシワ寄ってるぞ」…誰のせいだと思ってるんだ。



    「自分のものには名前を書きましょう」(仁新)

    俺の名前を書いた紙をこっそり背中に貼ったら怒られた。自分のものには名前を書けって習っただろ?だから、て肩を叩くとふざけるなだってさ。冗談じゃなくて本気なのにな。「本気だから怒ってるんだ」眉をつり上げた新の頬がほんのりと赤い。……あれ?



    今日も星空は見えないみたいだ(狐の怪異と鬼の怪異)

     今日も真っ暗な空を見上げて少年は首を傾げる。意識するとこうも見えないものか。ご無沙汰になってからもう何日目になるか分からない。
     机に積み重ねた本を開いては空と見比べ、図書室の窓際で肘を突く。パラパラと本を捲る。夜空の写真集。浮かんだ星を繋いだ線が左右に流れて閉じられる。次の本を手に取る。水彩で描かれた淡い夜空に流れ星を見つけ、子どもが指を指している絵本を閉じる。プラスチックで出来た星座盤をクルクルと回す。星座が東から西へと忙しなく回っていく。星座早見表と書かれた文字を辿る……
     写真の上で絵本の上で図形の上で文字の上で、こんなにたくさんの星々が瞬いているというのに、本物は雲隠れしたまま。一目見ることすら叶わないのは何故だろう。
    「まだ諦めてなかったのかよ」
     後ろから聞いた声が覗き込んで、開いた頁に影を作る。目隠しの鬼に向かって、狐面でくぐもった声は反論する。
    「悪いか」
    「言ったよな、意識するから駄目なんだって。雨が降っていようがどれだけ星が瞬いてようが、見なければ無いのと変わらない。見ようとする認識が逢魔ヶ時の世界にとって禁忌なんだよ。解ったら諦めろ、な」
    「勝手な世界だな」
    「そういう世界だし考えたら負け負け」
     そもそも考えないんだけどな、と歪められた口は揶揄を隠しもしない。少年と同じように彼は窓の外を向く。鬼の文字が入った黒い目隠しはやはり笑うのだろうか、星空を望む哀れな少年を。
     指先の下で星座盤が回る。おうし座、おおくま座、ベガにアルタイル。夏の星座に冬の星座。指に乗って回る回る、ひたすらに追い続ける。
     空想の上で星が瞬くなら、空に眩い星を望んでもいいじゃないか。愛でるくらいは許されても。怪異の世界にも星は巡るし、日は沈む。それに気づいてしまったらもう人間を笑えない。逢魔ヶ時に壊される前に忘れてしまえ。興味は人間に任せて愉快な祭りの誘い手に戻ろう、戻ろう。
     怪異はただゆらゆらと流れていくのみ。
    「見ろよ、月が出てないから星がよく見える。いい天気」
    「…………。ああ、もう夜だな」
    「お前見たがってただろ星、もう忘れた?」
    「星なら雨じゃなければいつでも見えるだろう」
    「そうそう分かってるじゃん。――おかえり、狐」
     星空を忘れて、少年は狐の怪異に戻る。



    君がいちばん綺麗だよ(仁新)

     文化祭も近づいたある日の放課後、やけに盛り上がっている集団の声が廊下にまで聞こえてくる。面白そうな匂いを嗅ぎつけ、委員会の仕事もそこそこにその空き教室を覗き込んだ。
    「お、メイドさんが一杯」
     不要な机のない広々とした空間は黒や茶のドレスを着たメイドたちで賑わっていた。ただし頑強な男たちの女装メイド。あちこちから悲鳴や笑い声が飛び交って煩いが文句はどこからも出ない。楽しい文化祭の準備中だから当然だ。
     慣れないスカートの裾を掴み上げ、ブーツを履いて恐々と歩くのも野郎なら、いらっしゃいませご主人様と棒読みで練習するのも野郎。徹底して女子の姿が見えないのは視界の毒でしかない。唯一の女子は赤いジャージだし、何か間違ってる。
     私は執事なの、と胸を叩く女子マネのメイド姿を見たかったと嘆き悲しむ野球部に心からエールを贈りたい。何で通ったんだろ、この企画。
    「マネージャ~、これ、スカートの裾短くない? こんなもん? あれっ、仁? うわー、何だよもう終わりか~」
    「何が終わりなんだよ」
    「こっちの話。何でお前ここにいんの? まだ呼んでないのに」
     頭を抱えたと思ったらコロッといつもの調子に戻る橋本。友人である彼ももれなくメイドドレス着用だ。ガニマタは当日までに直せよ。
     茶化しながら肩をどつき合った後、改めて周りを見渡して橋本が神妙な顔で声をひそめた。
    「ところで仁の好みはどれよ?」
    「そうだな、この中じゃお前はイイ線いってるんじゃない?……何だ、女子いるのか」
    「どれ?」
    「ほら、あれ」
     女装メイドに囲まれた小柄な影を見つけて身を乗り出す。俯きがちに胸元を握りしめる黒いセミロングの少女。遠目ではっきりしないけどあれは女子だよな髪長いし。
     確か女子マネは執事だって言ってたような……? 首を傾げる俺に、近くで見て来たらと曰くありげに目を合わせた橋本と女子マネに背中を押される。これだけ面白がってるってことはあれも男か。あの長さはさすがに地毛じゃないよな? ウィッグ被らされたりして力の入り様が半端ねぇ、期待の一年かな。
     背は小さいし袖から伸びる腕も細いけど、意識して見れば女子より骨ばってるし、丸みが足りない気がした。色々と惜しい。それでもこのプチ地獄絵図の中ではトップクラスの出来だ。照れたり、鼻の下を伸ばしてる奴もいるからメイクして黙ってれば充分騙せそうだけど。
     遠巻きに眺めていると、委員長こっち向いてーと声援が飛ぶ。嫌そうに顔を上げた彼の、肩の上で髪が揺れた時の衝撃を何と言ったらいいのか。勝手に侮っていた相手から右ストレートを食らわされた感覚が近いかもしれない。
     それは相手も同じで、つり目がちの瞳は丸く見開かれるばかりで何も言葉を発しない。
     この時期の委員長と言ったらあれだ、文化祭の。
    「あ……」
    「~~~~っ」
     新、と呟いた一言をきっかけに次第に青ざめていく表情。茫然と立ち尽くす俺に目もくれずに彼は駆け抜けていった。何で仁がここにいるんだ、と橋本に詰め寄る声が背後から聞こえてくる。それはこっちの台詞だよ。
    「何でそんな格好でここにいるんだよ……」
     マズイ、滅茶苦茶ツボにハマった。これじゃ駄目だ、友人の女装に腹を抱えて笑うのが遠藤仁の役割だったのに。見惚れて動けなかったってそれ、シャレにならないくらい馬鹿げてるから。



    小学生仁と警備帽の男の子で「笑ってくれる?」

    祭りの中、俺も女の子も笑ってるのに男の子だけは静かだった。「お前楽しい?」コクリと頷くけど警備帽で顔見えないから分かんねーよ、無口だし。楽しかったら笑えっての。柔らかそうなほっぺたつついたら怖がって、女の子の後ろに隠れちゃうし。どうすれば笑うんだよ、もー!



    仁新で「唯一の、嫌い」

    やってしまった。気付いた時にはあんなにうるさかった口は半開きに、目を見開いた君はひどく驚いて、その実傷ついた顔を見せた。あんまりしつこく絡んでくるから苛立って、口をついた言葉は効果覿面だったようだ。後でフォローするとはいえ、この気まずい空気をどうしたらいいだろう?



    仁新で「唯一の、嫌い」

    泣きそうになった自分に驚いた。思わぬクリーンヒットに喉の奥が凍りつく。他人に嫌われるのは昔からだから慣れてる、そもそも好かれたことなんてないし。お前に嫌われてるとか微塵も考えなかった方が不思議だ。とか言ってる場合か、とっとと謝ろう。これからも新の傍に居たいし。



    「人生で一番の」「いかないで」(仁新)

     一番の後悔は俺が生まれたことかな。顔色一つ変えずに呟いて仁は夕焼け空を仰ぐ。胸にストンと落ちたのはおそらく君の本心だったから。伸びる影はこんなにも夕焼けの向こうに還りたがってる、それは君の夢見るお伽の世界。
     後悔なんて都合よく言い換えても、君にとって世界は悪夢でしかないのだろう。儚く消えることすら許されない地獄そのもの。
     仁はそれでもいいと笑った。いつか違う世界へ行けるからいいのだと。
    「それは死ぬことと一緒だ、逃げてどうなる」
    「逃避と旅立ちは全然ちがうだろ。お前だって分かってるくせに」
    「君のは逃避だ」
    「それでもいいよ、俺は世界のむこうに行きたいだけだから」
     夕陽に紅く染まった横顔はそれでも足掻いて諦められない。その笑みは誰かに止められるのを密かに待っている。
     だったら襟を締め上げて望み通り叫んでやろう。行くなと声を張り上げて、君の目が醒めるまで存分に殴り合おう。それがきっと俺らしい止め方だ。
     手加減は抜きだ、と宣戦布告に口角を上げた。



    百年の恋って言うけど(仁新)

    「百年の恋って言うけどさ、あれどこまで行ったらお終いなんだろうな」
     放課後、図書室の入口で鉢合わせた仁と新は示し合わせたように一緒に廊下を下っていく。図書室から出てきた仁はずっと不機嫌だった。頭の後ろに腕を組み、いちいち険が含んだ言い方をしながら階段を下りる。
    「終わったら駄目なんじゃないか?」
    「そうだけど百年の恋も冷めるってよく言うじゃん、やっぱり終わるもんなんだよ」
     恋なんてと吐き捨てて、君は唇を噛んだ。熱く胸を焦がす恋愛を知らない子どもみたいな口振りで。冷める冷めない以前に恋には落ちるものじゃないのか。分からないと呟いた口で、思いを伝えたい女の子に巡り会ったらどんな言葉を紡いで気を惹くのか。あたふたして、どもったりする仁を想像するに笑えた。
     何笑ってんだよ、とジト目で指摘され、口元を手のひらで押さえた。
    「終わりが見えないほどお互いを思い合えるのはいいことだと思う」
    「一生添い遂げますってか、ロマンチストだね新くんは」
    「……君の言い方は悪意さえ感じるな」
    「そうだよ、恋なんて碌なモンじゃない。自分勝手に押し付け合った挙げ句に潰れて、相手を恨んで。ざまあないね」
     猜疑心と言うかここまで来たら排他的だな。昇降口に着いたら、各々上履きからスニーカーに履き替え、肩に掛けたカバンを掛け直す。
     図書室で何があったか知らないが、人当たりの良さが売りの彼がここまで悪意を開けっ広げにするのも珍しい。ファンの女子たちが聞いたら失望は免れないと思うが、新には関係ないし口には出さない。
    「相当拗らせてるな。君と思いを通じ合わせるのは困難そうだ」
    「……そうでもないけど、試してみる?」
     靴箱に上履きを仕舞いながら仁が振り返る。翳った彼の顔が上からそっと近づいて影を口に移した。口に残ったのはほんの僅かの熱。
    「恋じゃなきゃいいんだ、簡単だろ」
     ざまあないねと言った矢先にこれだ。好きじゃない相手に笑ってすることか。昇降口の扉を潜る仁に反省の色はない。



    「ずっとそばにいて」(仁新)

    それは軽薄な俺と寂しがり屋の彼の永遠不変な共通点。もっとも理解出来る弱味をお互いに知っていてなおかつ口にしないのは負けた気になるから。「新の意地っ張り」「君の方が強情だ」いがみ合いながら、今日もお前の隣には俺がいてこっそり安心してる。



    「目を閉じれば」(仁新)

    目を閉じて訪れた平穏もほんの小さなことで砕け散る。理不尽にぶつけられた苛立ちは苦々しくどうしようもない。いい加減放っておいてくれよ。うずくまった部屋の中で噛み締めた唇が切れる。目蓋の奥思い出すのはアイツの無表情な横顔だけでいいのに。仁は一人、唇を噛み続ける。



    「本物と偽物」

    遠ざかる白い背中を目指して走る。縮まない距離がもどかしい。君が本気を出すのはこんな時ばかりか。「……っ、仁!」疾走する背中は振り返らずに廊下を曲がっていく。見失う訳にはいかない。一人ぼっちになんかさせるものか、俺がいつも会っていた本物は君だから。



    「手だけつないで」(仁新)

    新の手を引っ張った瞬間こみ上げる郷愁の思い。遠い遠い幻に触れた感触、それは初めて彼を見た時と同じ。男の手なんかそうそう繋がないのにどうしてかな、懐かしいと思ってしまったのは。「お前の手握ったことあったっけ?」「ない」即答されてもやっぱりどことなく覚えてるんだ

    2016.1~4
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