書きかけ 何処まで話すか。
杉山の病室に彼と八木山とえべたんとで集まり、三者三様に唸った。
それも仕方のないことだろう。何せ三人がその目で見て経験した出来事は、現実からあまりにかけ離れていたのだから。
──ニュージーランド政府の高官とニュージーランド航空の重役が、話を聞きたいとアポイントメントを求めてきたのはつい先程である。三人は二日後に応じると返答をした。両者が顛末を知りたがるのは当然で、八木山達もそれを無下にするつもりはなかった。
ニュージーランド航空の旅客機が南極上空で行方不明になり、捜索のためにニュージーランド政府の出資で第一次登山隊が組まれたという経緯がある。それがK2率いる第二次登山隊が狂気山脈へ挑む元々の発端なので、彼等には知る権利があるのだ。
……とはいえ、だ。
全てを話していいものかどうか。
「八木山は、どう思う」
杉山が尋ねた。
「混乱を招きたくはない、というのが正直なところだな」
「隠すの?」
八木山の返答にえべたんが聞き返す。
「信じてもらえるか分からないし、奇異な目で見られたくもない」
「まぁ、確かに現実離れしすぎていたからな」
杉山はうなずく。
「せめてK2や梓さんも見ていれば、証言の信憑性が増したかもしれんが」
と八木山。
「コージーだけじゃぁねぇ」
そう言ってえべたんは笑う。
「高所での活動による集団幻覚と言われたらそれまでだしな」
「だが、遺体がどういう状態だったかを説明することは避けられないのではないか?」
「そこなんだよな……」
杉山の言葉に八木山は腕を組んで天井を仰いだ。