絵本の物語を読み聞かせる夜は 古書店の本棚整頓をしている時だった。
童話といった絵本の整頓が全然追い付いていないということで、私が今日やっていたのだけれど――
「わあ、懐かしい」
手に取った一冊の本。それは幼き頃の私が大好きだった物語。最初は継母にこき使われて、最終的には王子様と幸せなハッピーエンドを迎えるあの話だった。
「これ、お母さんに読んでってせがんでたなあ」
もちろんこれ以外にも読んでもらった絵本はあった。けれど一番読んでとお母さんによく読み聞かせでせがんだのは『シンデレラ』だったと思い出す。
気に入っていた点としては、やはりガラスの靴を置いていったシーンが幼心にして好きだったのかも……しれない。
それを王子様が拾うなんてロマンチックだなあと思いながら、その話を気に入っていた。
「朝火、何を手間取っているのだ?」
ひょっこりと九楼さんが私を覗き込んできた。なかなか戻ってこないから心配になって様子を見に来たそうで。
「あっ!ごめんなさい!!……ちょっと懐かしいものを見つけてしまったので」
私が昔大好きだった童話の話をすると、九楼さんはそうかといった。
夫婦になっても、相変わらずドライな態度なのでちょっとだけ悲しいようなないような。
「あの、これもう一度読みたいので、一晩だけでいいです。借りてもいいですか?」
「構わない。君が読みたいと思ったものはそのまま持っていっても構わない」
そういって九楼さんはカウンターの方へと戻り、PCを使った作業へ再び取り掛かっていた。
その言葉に甘えて、私はシンデレラの絵本を持っていってその夜読もうと思った。
――夜。
少しずつ冷え込んできてそろそろ冬を迎える準備をしなきゃだなあと思いつつ、寝る準備をした。
手には今日見つけたシンデレラの絵本を持って。
準備を終えると、九楼さんが寝室に入ってきた。あの人もまた、好きな本を手に持っている。
「それか。君が言っていた好きな本というのは」
「はい。子どもの頃によく読んでたんですよ。お母さんに読んで―ってよくせがんで」
今だと微笑ましい話だと思う。今は亡きお母さんのひざ下に座って、その物語に夢中になった。あたたかくて、大切な思い出だ。
「……その話、私にも見せてはくれないか?」
「えっ!?こ、これ絵本ですよ!?」
聞けばどうやら絵本の類はあまり読まなかったらしい。なのでせっかくだから、と思ってそう声をかけたそうな。
「それじゃあ、読み聞かせでもしましょうか」
「頼む」
九楼さんは布団の上に座る。私は胡坐をかいた九楼さんのひざ上に乗る形となった。
「……何故そうなる?」
「えへへー。まあいいじゃないですか。夫婦ですし?」
あきれたようなため息が聞こえてきたけれど、それでもおかまいなしに。こういう時でないとできない気がしたから。
とても密着した状態で、私は絵本を開いてその話を読み上げる。時々、お母さんが読み聞かせていたような話方を思い出しながら。
「シンデレラと王子様はこうして結ばれて、幸せになりました。おしまい……」
どうでしたか、と九楼さんに声をかける。すると、絵本はしばらくいいと言い放った。恐らく内容的に九楼さんの趣味ではないからだろうと思うけれど。
「他にも面白いのはあるんですよ。三匹のこぶたとか、赤ずきんとか!」
「……では、見つけ次第またこうやって読み聞かせてはくれないか?」
自分一人で読むより、誰かがこうして読んでくれる方がまだ読みやすいと、九楼さんは言った。
これは読み聞かせにハマったのだろうかと、心の中でしめしめと思う。
「いいですよ。私はこうして抱っこされながら読み聞かせるの、好きですから」
私を抱きかかえていた腕に力が入る。表では愛情表現がないけれど、こういう時に少し出てくるのは反則だなと思ってしまう。
「……そういうところが好きなんですけれどね」
「? 何か言ったか?」
「いいえ、なにも」
END