【フィガレノ】その三秒のためだけに「まぁまぁ、フィガロちゃん。とりあえずなんかこう、元気出して?」
「そうそう、フィガロちゃん。何があったか知らないけど、笑っていこ?」
空が薄雲に隠された、ほの暗い静かな夜。その日に限っては見上げた空よりも、このバーの方が多くの煌めきに満たされていた。優しく妖しい照明が、グラスや液面での乱反射が、空間を美しく飾っている。
穏やかな表情でグラスを拭く店主の前では、一人の魔法使いが管を巻いていた。自称南の国の優しいお医者さんこと、フィガロ・ガルシアだ。彼の両脇には長寿の双子の魔法使い、スノウとホワイトが控えてその背中を優しく擦っている。
「すまぬな、シャイロックよ。我らの愛弟子が、そなたのバーにそぐわぬ品の無い飲み方をして……」
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