Room 202「赤澤ァッ!!!!貴方また洗濯物をこんなに積み上げて!何度言ったらわかるんですッ。貴方だけの部屋では無いんですよ!?」
「お、おお……すまんばい、ついついな。エッ観月、俺は千歳たい」
「今すぐ片付けてくださいよッ。まったく不衛生な……。ん?そこの赤澤、貴方また部屋で訳の分からない汁を作るつもりじゃないでしょうね」
「いや、ちょっと今新しい配合を思いついてだな、忘れないうちに……」
「室内に異様な匂いがこもるんです!配合禁止ッ。やるなら外でやりなさい外でッ」
「待て、一度は飲み込もうとしたが無理だった。観月、俺は赤澤ではない。乾だ」
「ん?ところで赤澤はどこに行ったんです。そろそろ寮の点呼の時間です」
「話の流れからするとその赤澤は蓮二の事か。そして寮の点呼とは……。観月、蓮二は立海のミーティングが長引いているらしい。じき戻るだろう」
「そうですか……。きっと疲れて戻って来るでしょうね。僕、ハーブティーの用意をして来ます。ちょうど実家から良い茶葉が届いた所なので」
「柳の赤澤には随分優しいっちゃね〜。贔屓ばい」
「柳の赤澤とは……。待て観月、ちょっと落ち着け。何故我々をルドルフの部長に見立てて話を進めるんだ。我儘なお姫様だとは思っていたが限度というものがあるだろう」
「……乾くん。君のデータを以てすれば答えは明白な筈です。そう、僕はルドルフの寮で寮生管理委員を務めて参りました。いわば寮生たちのお母さんといったところです」
「成程。合宿生活のストレスで精神に異常をきたしたという訳では無さそうだな。続けてくれ」
「母性のやり場が無いのです……。残してきた部員達が気がかりでしょうがない。加えてどんなにガミガミ言ってもへこたれない赤澤が傍にいないのが、つらい……」
「ルドルフっちゃ、不二裕太がいるばい。そんなら裕太を甘やかしながらガミガミ言えばよかよ」
「この合宿、裕太クンには実の兄がいるでしょうッ!忌々しいッ」
「大きな声を出すな、観月。落ち着け」
「ですからこの機会に、複数の赤澤に囲まれて飴と鞭を使い分けつつ母性を奮いたいという、兼ねてからの願望を叶えてやろうかと思いまして」
「ほ〜ん。そんならしょんなかたい。よかよか」
「千歳は器の大きい男だな。で?我々を赤澤に見立ててどうだった。満足したか」
「……ッ、残念ながら、あなた方では赤澤として不完全です……」
「そりゃあ赤澤じゃないっちゃから……」
「今のところ一番赤澤が強いのは、千歳くん、君です」
「赤澤が、強い」
「だらしの無い生活態度を指摘されても何ら悪びれる事もなく、気が付くとフラフラフラフラその辺を徘徊して僕を心配させる。色黒な所も赤澤が強い。しかし如何せん背が高すぎる……。いくら僕でもこんなに大きい赤ちゃんは、無理です」
「成程、俺のデータによると赤澤は178cm。190オーバーでは流石の観月も育児に支障があるという事か……。その点一番身長が近いのは蓮二の赤澤だな」
「しかしあの赤澤は品行方正、甘やかす事に特化するしかなく……」
「帯に短し襷に長し、と言ったところか」
「乾澤に至っては最悪です。共同生活においてそこそこだらしの無い所があるとはいえ、千歳澤には及ばない。その癖変な汁を作って僕の神経を逆撫でする。さして甘やかすべき点もない……」
「乾、ドンマイ」
「何故俺は少し傷ついているんだ……」
「三人集っても赤澤が補えない……。このシナリオはお蔵入りにするしか、ありませんね……」
「俺、散歩に行ってくるったい」
「一人で赤澤を補える逸材がいれば、俺たちは赤澤から解放されると言うことか……」
「忘れてください。僕が愚かでした」
「観月、諦めるのはまだ早い。俺のデータによると、この合宿で一番赤澤が強い男が、一人いる」
「えっ!?誰です。あっ千歳澤がいない。また徘徊ですか全く……」
「木手だ」
「えっ!無理。何か部員に対してガミガミうるさいしいっつもギスギスしてるし」
「同族嫌悪は置いておけ。性格はともかく、見た目で言えば身長179cmの色黒、赤澤を彷彿とさせるだろう」
「ッ、確かに……。しかし木手くんですか。何か怖いし、イヤですね」
「そうだな。外見よりも内面に赤澤を求めた方が賢明だろう」
「答えは出ましたね」
「千歳を探しに行ったらどうだ?お説教のチャンスだぞ」
「サンキュー、乾くん」
「You're Welcome」
♡♡♡
「遅くなった。む、観月も千歳も居ないのか」
「蓮二」
「どうした、貞治」
「俺、日焼けしてみようかな」
「似合わん。やめておけ」
「そうだな」