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    とこ*

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    とこ*

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    日本からの応援団がオーストラリアに到着した辺りのお話です。木手甲斐は付き合ってません。
    木手・甲斐・柳・仁王

    #木手甲斐
    woodenHandArmorFei

    Room1006「柳クン、お先に部屋へ戻っていますよ。明日に備えて早めに休みます」
    「そうか、わかった。俺も追って戻ることにしよう。シャワーは先に使ってくれ」
     本戦前夜。この柳蓮二も含めた数名で大石の部屋へ寄り集まり、一通り情報を交わした後、木手はそう告げていち早く部屋を出て行った。それを機に他のメンバーもぽつぽつと席を立ち、俺はその後も小一時間ほど精市らと話し込んでから(今思うと大石に悪いが――嫌な顔ひとつせず皆に部屋を提供してくれるのだから有難い事だ――)自室へと戻った。

    「……む、仁王はまだ帰っていないのか」
    「そのようですねぇ」
    「柳生辺りと話し込んでいるのかもしれないな」
    「日本からの応援団も同じホテルに泊まれるようですね」
    「心強いことだ」
    「まったくです」
    「ところで木手……。それは、何だ?」

     まだシャワーを浴びていないのだろう、先に戻った木手はヘアスタイルもジャージ姿もそのままに、自分のベッドに長々と脚を投げ出しスマホを弄っていた。ヘッドボードに寄り掛かって座る木手の上にはTシャツにハーフパンツ姿の男がべったりと身体を重ね、木手の首筋に顔を埋めて微動だにしない。一度は呑み込もうとしたが無理だったし、おすまし顔の木手からは何の説明も無さそうなので、俺は「なんだ、それは」ともう一度何の捻りも無く問うた。
    「ああ、うちの副部長の甲斐です。甲斐クン、ほら同室の柳クンが帰って来ましたよ」
    「……」
     無言のままちらり、とこちらを一瞥して、すぐにまた木手に抱きつき顔を埋める。いや髪型・体型等から甲斐である確率百パーセントとは思っていたが、えっっ…無視……?それに今の鋭い目つき、何かに似ていると脳内のデータを手繰り寄せる。あっアレだ、以前通学路で見かけたハクビシンだ。大きなネコかと思い近づいたらハクビシンだったと赤也に話したら、「またまたァ~!柳サンそんなフカシこかないでくださいよォ~!てかハクビシンって何スか?」と阿呆丸出しの反応を示したものだから、先ず言葉遣いを正した後、近頃都会にも出没するようになった小型の肉食獣であると小一時間かけて説明してやった。それはさておき――。

    「――そうか。甲斐、遠路はるばるよく来たな。応援団と我々選手団、共に一丸となり戦おう」
    「……」
     今度はこちらを見ようともしない。何故だ……。比嘉とは対戦こそ無かったものの、俺とお前は崖の上から苦楽を共にした仲ではないか。それにそんなゼロ距離でくっつき合ってる男二人など、この柳蓮二今までの人生で見たことが無い。木手はあくまで落ち着いた様子で、甲斐の背中越しに眺めていたスマホを枕元に置いた。
    「こら、甲斐クン。ご挨拶しなさいよ」
    「……」
    「すみませんねぇ柳クン。俺とほんの数日離れていたのが余程堪えたと見えます。今は俺以外の情報を一切入れたくないのでしょう」
    「ほう……」
    「俺たちがこんなに遠く離れた事は今までに無かったので……」
    「遠方に出張した飼い主と置き去りにされた飼い犬と云ったところか」
    「まあそんなようなモノです。ほら甲斐クン」
    「……柳、はいさい……」
    「む、やっと人として接してくれたか。甲斐、よかったな木手と会えて」
    「ウン、木手はいよいよ明日から本戦控えて大活躍するからや、あんまりわんに構ってる暇もあらんのよ」
    「ん?そうか、そうだな。それはわかっているんだな」
    「であるから、今のうちに木手を吸っとこうと思ってや……。柳、部屋に邪魔してわっさんしが、気にさんけーよ」
     まあ、気には、なるが……。同郷の仲間との再会はさぞ嬉しい事だろう。抱きついたり、吸ったり――?匂いを嗅ぐという事か?ともかくその辺の過剰なスキンシップは沖縄流といったところか……?諸々不明点も多いが、こうして幼なじみと触れ合っている木手の表情は、普段の険が嘘のように柔らかくリラックスして見えた。データチャンス到来。さりげなく観察させてもらえればこの男の新たなデータが入手出来そうだ。
    「構わない。ゆっくりしていくといい」
    「ホントは二人っきりにしてくれるとうれしいんやしが……」
    「えっ?何という正直さ。……木手、そういう事なら甲斐の部屋でゆっくり再会の歓びを分かち合った方が良いのではないか。比嘉の連中も同室だろう」
    「そうすると、他の部員達の邪魔になって申し訳ないので……」
    「俺には邪魔になってもいいと!?」
    「冗談ですよ。フッ」
    「柳~そうカリカリさんけ~。なー木手♡」
    「ていうか俺はそろそろシャワー浴びたいんですがねぇ。甲斐クン、もう部屋に戻りなさいよ」
    「やだ。シャワー浴びる前のニオイもっと嗅がせろ」
    「はっっさや。変態」
    「はっさよ。なーちょい」
    「聞かんばくぬひゃーはよ」
    「へへっ」
    「フフッ……」
     俺にはわからぬ言葉でイチャイチャし始めた……。何となく無力感に襲われて、俺はジャージの上着を脱ぎながら浴室へと向かうことにした。
    「木手、先に浴びさせてもらうぞ」
    「どうぞ。ごゆっくり」
    「……まさかとは思うが、この部屋で、それ以上の変なことはしないように」
    「ヘンなくとぅって何だば~?」
    「甲斐クン。柳クンは俺たちが恋人同士であるかと疑い始めている様ですよ」
    「はっっさ!?」
    「はっっさよ」
    「わったーが、恋人同士であると!?」
    「そこまでは、言っていないが……。ずいぶん親密な様子なのでな」
     木手に跨ったまま振り向き、甲斐は俺の顔をぽかん、と眺めたあと、やがて屈託なく「アハッ!」と笑った。
    「わったーは、恋人やあらんど~!アハハッ」
    「そうか。そうだよな。では風呂に」
    「恋人やあらんけど、木手と結婚しようとは思ってる」
    「そうか……。??」
    「フッ」
    「アハッ」
     仁王、早く帰って来てくれ。二対一ではこの柳蓮二、疲労の色が隠せない……。それにしてもこの木手という男、同室で寝起きを共にする分には物静かで生活態度も良く、かつてのプレイスタイルが嘘のように品行方正だと思っていたが――。こうして同郷の幼なじみと一緒に居る所を見ると、どこか年相応にやんちゃであどけない一面もありそうだ。データの可能性に思いを巡らせつつ浴室のドアを開けようとしたところで、部屋の扉が開き仁王がやっと戻って来た。待ちかねたぞ。

    「ッ、なんじゃ」
     滅多に動揺を見せない仁王が、ベッドでべったり重なる二人を目にしてぎょっと身体を仰け反らせる。珍しい表情が見れた。いいぞ。今日という日、精神的には疲れるがデータ的には大安吉日、と云ったところか。木手と甲斐は案の定、仁王に見られたところで何ら悪びれもせず落ち着き払っている。黙って見返して来る二人に仁王はもう一度「な、なんじゃ……?」と繰り返した。
    「おかえりなさい仁王クン」
    「仁王、元気かや~」
    「ただいま。元気じゃ。何じゃおまんら、恋人同士か?」
    「恋人やあらんけど、木手と結婚しようとは思ってる」
    「?……そうか……。幸せにの」
    「にふぇーどー」
    「仁王、柳生とは会えたのか」
     早くもこの状況に慣れたのか、仁王は二人がイチャつくベッドの端に何の抵抗もなくスッと腰掛けた。適応能力の高い男だ。
    「会えたぜよ。柳生とバイバイしたあと樺地の顔も見ようと探したんじゃがの……樺地は見つからんかった」
    「なに、同じホテルなのだからいずれどこかで会えるだろう。では俺はシャワーに」
    「待て参謀。俺ひとりじゃとてもこの場を捌ききれん、行かんでくれ」
    「この状況をすんなり受け入れた訳でもなかった様だな……。いやしかし」
    「ほら甲斐クンそろそろ離れて。俺もシャワー行きたいんだってば……クッ、すごい力だ。そうだ仁王クン、俺にイリュージョンして甲斐クンを引き付けておいてください。その隙に俺はシャワーに」
    「えっ普通にイヤじゃが……」
    「もう~わんぬ居る所でそれ喋びたらバレバレやっし~ウケる~!えっ仁王、えいしろーにもイリュージョンできるのかや!?はぁや仁王はスゲーなぁ~!……てか木手はこの世にひとりだけだからな。仁王、絶対木手にイリュージョンさんけーよ。チッ」
    「情緒の豊かな奴じゃき」
    「木手の事となると想いが千々に乱れてしまうのだろう。放っておいてやれ」
    「いい加減にしなさいよッ!言う事聞かないとゴーヤーを透けるほどに薄く切って水に晒し充分に苦味を抜いたあと美味しい味付けにしたやつ食わすよッ」
    「げ~ッ!わーったわーった……。木手、ごめんちゃい」
    「そこまで手間暇かけても食わないのか……」
    「頑なじゃの」
     甲斐はやっと木手から離れ、渋々とベッドから降りた。解放された木手もベッドから降り、甲斐の首根っこを掴んで部屋の出入り口へと歩き出す。
    「ふたりともお騒がせしてすみませんでした。俺はくぬひゃーを部屋まで送って来ます」
    「随分と過保護なのだな」
    「いえ、放っておくと絶対フラフラどこかに行ってしまうので……。海外で徘徊されてしまっては探しに行くのが一苦労です」
    「おまんも大変じゃの。甲斐、またの。応援よろしく頼むぜよ」
    「まかちょーけよ!木手、行ちゅんど♡」
     ニカリ、首根っこを掴まれているというのに嬉しそうに笑う。甲斐の尻から大きなシッポが生えてブンブン揺れてるように俺には見えた。二人が部屋を出て行くと同時に、俺と仁王はふぅ、と息を吐いた。

    「……柳よ」
    「む、何だ」
    「幼なじみっちゅーのは……何歳くらいからの付き合いを指すんかのう」
    「ふむ、明確な定義は無いとは思うが……。俺のデータによるとあの二人は五歳くらいから、精市と弦一郎は四歳からの付き合いだ。双方、確固たる幼なじみと云えるだろうな」
    「おまんと、乾は……?」
    「ダブルスを組んでいたのが10歳の頃だな。これも立派な幼なじみだ」
    「ひとケタ歳、という決まりでも無さそうじゃな……。じゃあ、俺と柳生は?」
    「中学からの付き合いだと、一般的な幼なじみのイメージとは離れて来るかも知れないな」
    「じゃあ俺と樺地は?少しでも若い方がいいなら樺地はギリ俺の幼なじみに入らんかのう?」
    「仁王」
    「何じゃ」
    「シャワーに、行ってもいいか」
    「プリッ……」

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