纸老虎 ***
大通りを渡り、商店街を抜けてまっすぐに坂を上っていくと高台に広い屋敷がある。
持ち主である老人の話によると、コロニアル様式、というらしい。かつてどこぞの国で財をなした異国の老人は、そこを終の棲家としている。
一虎は、彼に呼ばれて月に2度、そこを訪れていた。
渋谷の繁華街からほど近いのにもかかわらず、年じゅう葉擦れの音が話し声のように風に乗って聴こえてくる。
周囲に人影が見えない時には、手入れの行き届いた木々たちの退屈を持て余した囁き合いが坂のあちこちでこだましていたが、誰もがうらやむその静けさは、一虎にとってはむしろ落ち着かない気持を抱かせるものだった。
かえって不自然なほど平穏さを演出された町並み──それは、かつて父母と過ごした日々をどことなく思い出させるからである。
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