ゲドウ⑪夕暮れ時、ハイラル城下街を歩いているとリーバルは背後からつけられている気配を感じた。
厄災復活を目前にして益々活発になった魔物達を恐れ、商店は早々に店じまいをし、出歩く人も少なくなった。
「英傑を狙うなんていい度胸だな。何者だ」
路地裏に誘い込み弓に手をかけて振り返ると、そこには二人の旅装束をしたハイラル人がいた。
ボン、と札とともに煙が沸き起こる。それはリーバルの見たことのないイーガ団構成員であった。
「リーバル様。 コーガ様よりお言付けがございます」
生死も不明だった仲間の久々に見る姿。リーバルは目を見開くと二人に駆け寄った。
「生きてるのか?!他の皆は?どこにいるんだ?」
「お連れします。抵抗なされぬように」
構成員達はリーバルとは打って変わって冷静な態度で懐から白い布を取り出すと、リーバルの目を覆い隠すようにそれを結び付けた。
「なぜこんなものがいる?必要ない」
「 コーガ様のご要望でございます」
リーバルは見知らぬ構成員の様子を不気味に思いながらもそれを受け入れ、二人が印を結んだ気配がしたと思った瞬間肌に当たる空気が変わった。湿気を含みひんやりと停滞した空気。どこかの洞窟に移動させられたようだ。
そのうちリーバルの足音はコツコツと硬い石畳を歩く響きに変わった。
奥の方から、香を焚きしめたような強い香りが漂ってくる。
胸の悪くなるようなその香りの元にたどり着くと、背後で扉が閉められた音がして、リーバルはようやく目隠しを外された。だがその腕は二人の構成員に拘束されたままである。
薄暗い。蠟燭のような仄かな明かりが低い位置にいくつか灯っている。なんとか目をならそうとしばたくと、目の前にぼんやりと見慣れた面が浮かび上がってきた。
「コーガ!生きていたのか!スッパは?皆は?あれからどうなった・・・」
「まあ落ち着け」
ひじ掛けにもたれるように足を崩して座敷に座り煙管を吹かすコーガは、構成員を振り切って走り寄ろうとするリーバルを制した。
「スッパは無事だ・・・後で会わせてやる。他の団員もあちこちの村に潜伏させている。魔物が異常に増えたおかげで難民が増えたからな・・・。うまいこと紛れ込んでいるようだ」
「なんで連絡をくれなかったんだ?それにここは?なぜこんなことを・・・」
ようやく目が慣れてきて辺りに目を走らせると、リーバルの腕を拘束している二人以外にも暗がりに構成員が数人。幹部の姿も5、6人は確認できた。見慣れているはずが、物言わず浮かび上がる多数の白い面を不気味に思ってリーバルは言った。
「誰?こいつら。いつもの気配と違う」
「みんな古参だ。知ってる奴よ」
コーガは手を振り、どうでも良さそうにそう答えると煙管の灰をトントンと落とした。
「・・・お前は以前から俺様とヤりたがっていたよなあ」
「え?うん」
「餞別にちょっくら遊んでやろうと思ってな」
「餞別?どういうこと…」
そういうとコーガはずいと身を乗り出しリーバルの嘴に立てた人差し指を当てた。
「返事はイエスかノーだけだ。あと俺様が使うのはこの指だけ」
近付いてきた面が影になり、低い声がリーバルを威圧するように告げる。
浮かされたようにリーバルが頷くと、コーガは端に控えていた構成員に合図をした。
畳んだ衣服を捧げ物のように抱えた構成員が近付いてくると、リーバルを拘束していた二人の腕が離される。彼らは手際よくリーバルの衣服を脱がせ、持ってきた装束に着替えさせた。
普段イーガ団としてリーバルが着ているものと同じものだ。袖がなく、詰まった襟首は後ろから見るとチョーカーのようにホックで止められ、 背中は上半分が露出していて、腰の後ろはコルセットのように紐で絞られている。
下半身は前垂れが膝の辺りまで垂れ下がり、後ろは尾羽を避けるように二枚の布が下がっていた。
リーバルがルビーの飾りの付いた自前の面を取り出すと、構成員はそれを受け取りリーバルの顔に被せた。
「な」
「黙れ。群青の羽根にも赤はよく映える。英傑の姿のお前が堕ちる様を見るのが乙なんだろうが。なぁ?俺様の青い鳥よ」
コーガはリーバルの喉をくすぐり、煙管の煙を吹きかけた。 むっとするようなその重厚な香りを嗅ぐと、身体が重力に負けたかのようにどろりと重たくなり、やがて下腹に熱が集まり頭がぼーっとしてくる。
「タバンタヘラジカの香嚢とマモノエキスで作らせた。リト族にはよく効くらしいな」
コーガの笑い声が頭の中で反響した。触覚が鋭くなり、やがてリーバルは執拗に嘴に這わされるコーガの指先のことしか考えられなくなった。
いつの間にか後ろに立っていた幹部がリーバルを抱えあげ、コーガの崩した膝に跨らせた。
ぬるりとした触感の何かを手に握らされる。それは、ツルギバナナの葉をよくなめして柔らかくした男性器を模した張り子だった。
「自分で入れろ」
簡潔にコーガが命じる。リーバルはコーガの肩に方手を置き膝立ちになると、後ろから自らの孔にそれを少しづつ挿入していった。
震えるような吐息を吐き、微動だにしないコーガの面を見詰めながら、慣らすようにゆっくりとそれを入れていく。
酸素を求めるように頭を仰け反らせると、その痴態を見ている団員達がぼやけた視界に入り、リーバルは羞恥に身体が震えた。その頭はコーガによってぐいと戻され、
「顔を逸らすな。俺様の顔を見ながらだ」
と告げられた。
濃蜜で生臭いヤマユリのような香りに、とうとう頭がおかしくなったようだ。
リーバルはコーガの顔を見ながら右手で固定させた張り子に対して腰を揺らめかした。
「ハッ……ハァ………」
頭の中で自らの浅ましい息遣いが反響する。
コーガはその間も嘴の下の付け根を優しく撫でつける手を止めなかった。
「随分と好いようだなぁ、え?」
コーガは幹部の一人を呼び寄せた。その男はリーバルの後ろ手から張り子をズルリと取り上げると、その代わりに既に屹立した自らの陰茎だけを衣服から晒し、リーバルの孔に埋め込んだ。
「ァッ…、だれだ……、」
コーガの手に嘴を捕まれ、後ろを確認することが許されない。
「お前なら分かるだろうが。淫乱な奴め」
知らない、知らない、と首を振るうちに無言で抽送を続けてくる陰茎が徐々に膨らんで、リーバルの腹の奥の情欲を刺激した。
「もうダメ、イく、イっていい?ねぇ、」
哀願するようなその声にコーガの顔が面の内で笑ったような気配がする。「いい子だ」と呟くとコーガは喉元をくすぐっていた指先を嘴の下に滑らせてグっと押し付けた。
「いいぞ。イけ」
「クッ・・・・!」
喉の奥で悲鳴を噛み殺したリーバルの身体がビクビクと震えた。
収縮する孔が陰茎を絞り上げ、小刻みな抽挿の後腹の中にドプリと体液が吐き出される。性器を抜かれた後の孔は呼吸をするように閉じたり開いたりして、溢れた白濁が腿の羽毛を伝った。
性器を突き入れていたのは別の男なのに、自分を犯しているのはコーガであるとそう脳が認識している。
また別の幹部が呼び寄せられて、コーガの膝に縋るリーバルを抱えあげると床に降ろした。
仰向けになった男の上で、リーバルはコーガに向けて両足を大きく押し広げられた。
孔が性器を飲み込んでゆき、下から容赦なく突き上げられる光景をすべてコーガに見られている。
「アっ…ァ……」
こめかみに手をやり緩慢な動作で時折煙をくゆらすコーガは、その仮面の下でどんな顔をして自分を見ているのだろうか。羞恥と快感が入りまじり、リーバルは次第に自ら脚を開いてその痴態をコーガに見せ付けるようにしていた。
身体を再び持ち上げられ、リーバルはコーガの足元に転がされた。上から幹部が覆いかぶさってきて、無言でリーバルを追い詰める。リーバルは反転した視界の中、頭上で見下ろすコーガの面を見つめた。
指先が近づいてくる。コーガの親指が嘴の奥に差し入れられ、リーバルの舌をグイと押した。
「ゥッ・・・、ッ・・・、」
えずくリーバルの閉じることを許されない嘴の端から涎がツゥと垂れる。コーガの指がスルリと嘴を撫で上げ、「イけ」と命じると、リーバルは再び絶頂した。
朦朧とした意識の中、白い仮面が浮かび上がっては消える。リーバルの身体はいつしか誰のものともつかない精液で汚されていった。
「お前の1番お気に入りのモノを持ってるやつが来たぞ」
コーガの足元に弛緩した身体を投げ出したリーバルは、いつの間にかほどけた髪を床に散らし、コーガの脛に取り付けられた仕込み刃を仔猫のように甘噛みし嘴で弄んでいたが、その声を聞いて僅かに頭をもたげた。
大男が暗がりの中から現れ、こちらへ向かってくる。その姿を見ると、仮面の下でリーバルの口端が嬉しげに上がった。
スッパはリーバルの姿を近くで確認すると一瞬足を止めたが、その後は意に介することもなかった。伏せるリーバルを片腕で抱えあげ、白濁にまみれた剥き出しの背中にためらうことなく唇を寄せる。
「アイツらのモンじゃ満足できないらしいんでなぁ。とんでもねぇヤツが男の味を覚えたもんだよ」
コーガは剣呑な様子でスッパに顔を向けた。詰められているような気がしてスッパは面を伏せたが、それ以上の追及はなかった。
リーバルの脇に背後から両腕を差し入れたスッパは、コーガに向けてその身体を捧げるかのようにぐいと反らした。
コーガの指先がリーバルの腹の中心にトンと突き当たる。そのまま胸の中心を通って喉元まで焦らすように滑らされると、リーバルはハッハッと短く息を吐いた。
今までの男達とは比にならない大きさのモノがリーバルの中に挿入されていく。スッパは片膝をついてリーバルを羽交い締めにしたまま腰を打ち付けた。
「・・・!あぁッ・・・・!」
「お前を犯しているのは誰だ?ん?」
「スッ・・・」
「違ぇだろ?わからねえか?」
コーガは喘ぐリーバルをジッと見つめた。リーバルはその面をすがるように見上げ、やがてコーガの望む答えが自らの答えだと理解した。
「コーガ・・・。コーガに犯されてるっ・・・・」
「そうだ。よくわかったな」
よしよしとコーガの手がリーバルの顔を撫でまわす。リーバルはもっと撫でてほしいと言うようにその手に顔を擦りつけた。
「ふっ…はぁっ…」
嘴から絶えず官能的な息が漏れ、クックッと嗤うコーガの白い面が曖昧な視界の中でゆらゆらと揺らぐ。
コーガはリーバルをそのままにして座りなおし、煙管の煙をゆったりと吐き出した。
「お前と初めて会った時の事だが・・・。お前の親はハイラル兵に不幸にも殺された。だが、なぜあんなところにハイラル兵がたった2人でいたんだろうなぁ。何かに怯えたような様子で、警戒心はルミー並みだった・・・・」
リーバルは何を言われているのかわからず、コーガを見た。
「俺たちイーガ団が追い詰めたんだ。兵士の隊列からはぐれさせて追い込んだ。だから、お前の両親は俺様が殺したんだよ、リーバル」
コーガはその間にも絶え間なく続く律動に項垂れるリーバルの顎に指をやり、自分の方へ顔を上げさせた。
「お前には特例として選択肢を与えことにした。もうすぐ厄災が復活するが、その時イーガ団に付くかハイラル軍に付くか・・・。だから、餞別だ」
今にも意識を飛ばしそうなリーバルに、その言葉が届いたかどうかは定かではない。
返答を聞くつもりのないコーガの指先は、律動に合わせてリーバルの嘴を性器をしごくように擦った。
「気付いてるか?お前の身体を俺様が造り変えた」
まだ膨らみ切ったままの怒張がいつの間にか引き抜かれたことには気付いていた。
だがリーバルの意識にあるのはコーガの指先のことだけ。リトの性感帯は嘴になぞ存在しないというのに、その指がこの場所を擦るのは絶頂の合図だと執拗に刷り込まれた。
リーバルはコーガの指先に身体を揺すりながら嘴を擦りつけた。
「アッ・・・ハァッ・・・・!」
コーガが爪をカリ、と立てるとリーバルは息を吞んでとうとう果てた。
「ハハハ!すげぇな、お前」
コーガはカラカラと笑うと、放心したまま生理的な涙を流すリーバルの顔を引き寄せ、仮面をずらさぬまま口付けの真似事でもするかのようにその頬に面を押し当てた。
***
スッパはぐったりとしたリーバルを抱え、仮のアジトに突貫でこしらえた湯殿に連れてきた。
コーガが湯を使うものだと早合点した構成員がご丁寧に椿の花弁を浮かべたようで、湯は表面が見えないほど真っ赤に染まっていた。
手首に巻いた暗赤の包帯をほどき、ぴたりと張り付いた手袋を外す。
適当に袖を捲るとリーバルの汚れた衣服をはぎ取り湯船に降ろした。ゆるく波打つ藍色の髪が広がる。水を吸わない羽根の上で湯が固体のように転がった。
丁寧に髪を手ぐしで梳き、艷めく羽根
を1枚ずつ逆立ててから整えていく。
浮いてくる身体を浸からせようとぐいと肩を押すと、抵抗の少ない身体は簡単に沈んだ。
スッパはそのままリーバルの身体を沈め続けた。閉じた瞼が椿の花弁に覆い隠され、その嘴もやがて見えなくなる。
スッパの腕が僅かに震えた。恐怖心などはるか昔に捨て置いてきた。だが、このリトは末恐ろしい。盤石だった自分の感情が作り変えられていく恐怖。人を惑わせやがては破滅させる、淫蕩で美しい悪魔のような存在。抱いたことも、そもそも出会ったことも誤算だった。
ハイラル軍に付くというのなら、いっそ我らイーガ団の手中にあるうちに。
その時、湯船の中でリーバルの目がぱちりと開かれた。ゴポリと嘴から空気を吐き出し、スッパの手を押しのけてザバリと湯を散らす。水滴が玉のようにリーバルの身体から転げ落ち、湯殿の仄かな照明に反射してダイヤモンドのように光った。
輝く翡翠色の瞳がスッパを横目で見降ろす。体中に椿の花弁を張り付けたままリーバルは飛び上がると、その場を逃げ出した。