誰もいない事務所で不意打ちのように待ち伏せて、なるほどくんを待つ。帰ってきたなるほどくんは、あたしの姿を見つけるなり、無言であたしを睨みつけた。ごめん。約束を破ったのは、あたしだもんね。でも、やっぱり心配だったんだもん。なるほどくんは窓へ近づくと、壁に張り付いて姿を隠したまま、外の状況を確認した。いつの間にか降り始めていた雨が、窓を濡らしている。外の様子は、よく見えない。なるほどくんは、ぶら下がっていたブラインドの紐を引いて、急いで落とした。たぶん、尾行はいなかったはず。あたしもそれを確認してからこのビルへ入ったんだよ。
　なるほどくんが、テーブルにあったペンを手に取り、メモ紙へ何かを書き始めた。

昨夜から泊まり込みで行った作業がようやく終わった朝にタブレットが鳴った。
『綺麗な虹が出てるからルークにもお裾分けしてあげるね』
メールに添付された画像には、青空と虹。
随分と大きくて綺麗だ。モクマさん達はどの国の空の元にいるのやら。

署を一歩出ると昨夜からの雨のせいで水溜まりが山ほどできている。空を見上げれば、徹夜明けには随分と眩しく目にしみる。

そして、空には
──大きな虹が見えた。


青空だけなら時間はそう分からない。
でも、虹なんてそんなに広い範囲で見えるものだっただろうか。どの位の時間見られるものだっけ。

もしかして、近くにいるのだろうか。

はやる心を抑えてタブレットを空に向けて青空を切り取る。

ひとまず画像を添えて『奇遇ですね』と返事をつくる。