ミスオエと自殺志願者 靴箱を開けると、一枚の紙が入っていた。
ぼくを殺してください。
たった一言、やけにていねいな字で書かれたそれをミスラは当然のごとく無視した。差出人の書かれていない手紙に返事を出すことはできないし、相手がわからなければどうすることもできない。
また、それ以上にさして興味の持てるものではなかったからだ。果たし状やラブレターならまだしも、この手の手紙をもらったのははじめてのことだったので、対処のしようがなかったというのもある。
手紙は、翌日も翌々日も、そのつぎの日も靴箱に入っていた。
そこにはあいかわらず、〈ぼくを殺してください〉とだけ書かれており、いつものようにていねいな字で綴られ、さらにはぴたりと折られていた。だれの仕業かは知らないけれど、きっと几帳面な人物なのだろうと思った。
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