Galapagos「今まで、本当にお世話になりました、霊幻師匠」
こんなありきたりな言葉に心中を引っ掻き回されるのは、後にも先にもこの時だけだろう。
「こっちこそ、長い間世話になったな、モブ」
そう言って霊幻は、茂夫が差し出した手のひらサイズの端末を受け取った。使い古されたそれは、スマートフォンが主流の現代において、ほとんど廃れてしまったガラパゴス携帯だ。時代から置いてけぼりにされたガラケーを大切に握りしめながら、霊幻は目の前の青年を見つめた。
新品のスーツを着込んだ茂夫は、眩しいほどに初々しい。
「入社式は明日だったよな」
「はい。まだ、実感が湧かないけど」
俺も実感湧かないよ、と霊幻は内心で呟く。初めて会った時は、ランドセルを背負った小さな子供だったのに、今や、身長は僅かばかり霊幻を越してしまったし、ガタイも昔より良くなったし、声も当然、低くなった。
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